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“しつこいようだけど、今度は同じクラスだし、翔と仲良くしてやって欲しい。昔から人付き合いが下手で誤解されやすい奴なので”
一見すると朱色の桜桃に良く似た、しかし、周りの葉っぱに対して微妙に小振りの大きさから染井吉野の実と分かるアイコンが語る。
“櫻子ちゃんは優しいからきっとわかってくれると自分は信じている”
“分かりました”
学校でこちらが挨拶しても不機嫌な顔つきで素っ気なく返す、あの権高な翔君が仲良くしたがっているとはとても思えない、むしろ、向こうがお断りなんじゃないかと思うけど、それでもこの人のたった一人の弟である以上、私はこう返すしかない。
“ありがとう”
小さな赤い実の告げる五文字に、トクン、と胸が熱く鳴る。
ザワザワと風が木々の葉を揺らす音がして、今しがた撮ったばかりの桜桃のまだ若緑色の実も震えた。
こちらが熟すにはまだ時間が掛かるのだ。
ふと庭に降りるために開け放したガラス戸の隙間から、温かなトマトソースの匂いが流れてきた。
どうやら今日のお昼はナポリタンみたいだ。もう出来上がる頃だろうから食卓を布巾で拭いてフォークと粉チーズを出してこよう。
そうしないとまたお母さんが「気が利かない」と食事中もずっと不機嫌になるから。
この二ヶ月ですっかり身に付いた反射神経でガラス戸からリビングに上がったところで、台所から母親が出てきた。
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