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【異世界エルフの双子 ミマとマミのアルバイト大作戦!】 〜運命の偏り〜
ダーッ!
「あーっ!食い逃げ!」
「逃げた、逃げた」
「マミ、ちょっと屋台お願い!」
「わかった」
「コラッ、待てー!」
◇◇◇◇◇
双子の姉妹ミマとマミは田舎から出て来たごく普通のエルフだ。
とある錬金術師の魔女に弟子入りし日夜薬の調合や魔法の研鑽に励んでいる。
姉のミマは人当たりも良く周りとうまく溶け込めるのだが、常に妹マミの失敗を尻拭いしている。
妹のマミはややぶっきらぼうで口数が少なく少し天然だが、姉のフォローもあり生まれてこの方『ラッキー』だけで生きて来た。
弟子入りした師匠の腕前は確かに凄く、薬の調合においても、召喚魔法においても比類なき力を持つ事は疑う余地がない。
その事は他の錬金術師達だけでなく神すらもその力を認めている事を二人は知っていた。
しかし実際は人として、とてもダメダメな師匠なのだ。
あまり周りに敢えて言いふらすような事ではないが、師匠は生活力が全くと言う程ない。
二人がハース沼脇にあった師匠の家を訪ねた時も薬を作りながら空腹で倒れ危ういところだった。
双子は慌ててキッチンに行き水を飲ませ、何か食べ物を作ろうとした。
しかし食料庫にはひからびたネギしか残っていなかったというありさまである。
その後双子は食料を携え師匠に無事弟子入りした。
師匠のネギ好きが高じ、ハース沼からシャムニータンに移住して来たが師匠の生活力のなさは相変わらずである。
そして生活も苦しく師匠をフォローする必要があり双子は副業を始めたのだが、なかなか上手く行かない日々が今日も続いていた。
◇◇◇◇◇
「コラッ、待ちなさーい!」
「待てって言われて待つバカがいるかよ。へっ!」
もう。足が速いわね。
あんまり使いたくないけどしかたないわ。
「イング!」
変化と成長を促す土魔法だ。
逃げる男の足元が『ボコリ』と盛り上がり、男はそれに躓いて盛大に転けた。
「うわー」ゴロゴロ!。
「観念しなさい!」
「ペッペッ!活きがいい姉ちゃんだな。俺に魔法で楯突くとは身の程を知らねーな。フン!」
ミマの足元の岩が『バチン』と弾けその破片がミマに鋭く当たる。
「きゃっ!」
男の顔におどろおどろしい呪いの紋様が浮かび上がった。
まずいわ、黒魔法使いね。どうしましょ。
「けっ!わざわざこんな人気のねえ所まで追いかけて来やがってご苦労なこったぜ」
低いが切り立った崖に隠れ人気のない脇道まで追いかけて来た。
「あなたが食い逃げしたからでしょ、大人しくお金を払いなさいよ!」
男が呪文を唱えるとミマは手足の自由が効かなくなり、立ったまま動けなくなった。
「へっ!ざまあねえな。ちょいと楽しんでやるか」
男の黒魔術師特有の入れ墨だらけの手がミマの尻を掴む。
「イヤッ!」
「いいケツしてやがるぜ、ケッケッケッ!」
「やっ、やめなさいっ!」
男の手がスカートの中に伸びた。
「イヤーーッ!」
「ティールゥルィアー!」
サラサラ、ガラッ、 ガツッ! ゴトリ。 ドサッ。
男の頭に頭上から小岩が直撃し男は頭から血を流して倒れた。
男が気を失いミマは動けるようになった。
マミの魔法で崖の上から岩が崩れ落ちてきたようだ。
「マミ!」
「ミマ平気?」
「マミありがとー! ホント助かったわ。でもこんな攻撃魔法を使って大丈夫なの?」
「これ攻撃じゃない」
「へっ?」
「崖の岩に崩れてもらった」
えーと、そ、それは、、、少し言い訳くさいような。
「ちょっとマミ、そういえば屋台はどうしたのよ?」
二人が屋台まで走って戻ると既に売上やら金目の物やらが全て盗まれていた。
「はぁはぁ、あー盗られたわ」
「あーあ」
その後、食い逃げ犯人は保安局に逮捕され連行されたが、二人は雇い主に首になり途方にくれた。
◇◇◇◇◇
数日後、、、。
おしゃれな喫茶店の制服はスカートの丈が少し短かったが双子によく似合っていた。
愛想のいいミマと口数の少ないマミそれぞれに幾人かのファンが出来る程の人気が出ていた。
これでようやく副業も軌道に乗りそうだ。
昼時、今日も店は混み合い大忙しだ。
この店のオーナーである貴族の息子、アルバートも来ている。
普段から短いスカートがからかわれるのか、時折ミマとマミは客からお尻を触られる。
しかし『キャ!』と言いながらも木のお盆で客の頭を『パコン』とやり返し、軽く抵抗することがこの店の名物ともなりつつある。
もちろん客の方もミマ達が食べ物などを運んでいない時にしか悪ふざをしたりはしない。
「イヤー!」
何か他の類の店のサービスと間違えたのかアルバートは己の立場を履き違え、料理を運ぶミマを捕まえると、後から羽交い締めにするようにミマの胸の感触を楽しんだ。
「ア、アルバート坊っちゃん。や、やめて下さい。りょ、料理を落としてしまいます」
「ゲヘヘへへ、お前、それ落としたら首だからな」
ムニムニ。
「イ、イヤ〜ン」
「こうすれば落とさない」
ガシャン! バタッ!
大きな陶製の水差しに入っていたワインによるものか、アルバートの頭からの流血によるものなのか、喫茶店の床は赤く染まった。
もちろんマミの持っていた高級そうな陶製の水差しはアルバートの頭で粉々だ。
「マ、マミ」
「ミマ平気?」
「うん。でも坊っちゃんが!、、」
〜魔法に依りて傷を癒やし給え ウル!〜
(エアクリウフルト クリウリトン グレステパントル)
「これでそのうち起きる」
「でもその水差し確か高いのよ、、、私達終わったわね、、、」
ミマの予想通り、店を首になり途方にくれた。
◇◇◇◇◇
こうなったらもう日雇いの肉体労働だわ。
ミマとマミは日雇い労働者の募集で馬車道の整備にかり出された。
道に飛び出した石を掘り起こし土で埋め戻す体力勝負の作業である。
力が必要な場面では身体の強化を繰り返し二人はかなり疲弊していた。
「うんしょ、うんしょ」
「・・・」
「んっーんっ。ぜぃぜぃぜぃ」
「・・・」
「ちょっと、マミ。何サボってるのよ」
「さぼってない。休んでる」
「さっきからずっとでしょ!」
「少しは働いた」
明らかにマミの掘り出した石の量は、ミマが掘り出した石の山の半分にも満たなかった。
「おーい、お前ら、今日はここ迄だ」
「「はーい」」
「おっ結構掘り出したな。こっちの沢山掘り出したのはどっちだい?」
サッ!
マミが素早く手をあげた。
「そうか、ちょいと臨時で金が余分に入ったもんだからな、あんたの方は少し色つけてやるよ」
「どうも、どうも」
「・・・」
「ちょっとー、マミ、そんなに働いてないでしょ」
「だってお金必要」
「私だって必要よ! もうしょうがない子ねえ」
◇◇◇◇◇
今日はファーストフード店だ。
ドンガラガッシャン!
もちろんマミによる『お約束』である。
近くに座っていた気弱そうなエルフのズボンに思い切りヤギの乳がかかってしまった。
ミマが謝る。
「ごめんなさい。今すぐに拭きますから。マミ、早くタオルを持って来て頂戴!」
「い、いえ、あ、あの大丈夫ですから、お、お構いなく」
「そんな訳に行きませんよ。マミ、一緒に丁寧に拭くのよ」
ゴシゴシ。ゴシゴシ。
「あうぅ」
ゴシゴシゴシゴシ。
「そ、それ以上擦られると、、、」
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ。
「あうぅぅぅぅぅぅ!」
お客様が頭をガックリとうなだれた所を店長に見つかり『またお前らかっ!』と首になった。
・・・
◇◇◇◇◇
はぁ、お家賃は田舎と違って高いし、食費もギリギリだわ。
こんな都会に出てきても何もいいことなんてないのね。
もう田舎に帰った方がいいのかしら。
「ねえ、マミ。もう田舎に帰ろうかと思うんだけど、マミはどう、、、」
「はい、これ」
「何これ、私が欲しかった魔石のブローチじゃない。マミ、これどうしたのよ」
「働いたお金でミマに買った」
「なんでよ?」
「ミマのお誕生日」
「お誕生日って、私達双子なんだからマミも一緒でしょ?」
「あっ、忘れてた」
もう、しょうがない子ね。
ホントに天然なんだから。
この為にお金が欲しかったのね。
ウフフ。ありがとう、マミ。
もう少しだけこっちで頑張って見ようかな。
◇◇◇◇◇
その後、何人かの雇い主がミマとマミの所へ訪れた。
二人は色々と賠償させられる事を心配して物音をたてず居留守を使おうとした。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイわ。
シィー!
しかし二人は雇い主の魔法であえなく見つかってしまい、神妙な顔つきで正座をしながら順番に彼らの話を聞く事となった。
運命とはそう過酷な事ばかりでもなく二人のエルフはやがて笑顔となるのである。
では色々とあったので少し整理しながら雇い主達の話を聞いてみよう。
【ケースその①】
屋台の店主から『食い逃げ犯に賞金がかけられていて、店の損害よりもずっと多額の賞金を貰ったから持って来た』と結構多額の賞金を受け取った。
ミマとマミはそこから店主に損害分を支払ったがまだ沢山のお金が手元に残った。
そして『二人のように正しい行いをしたエルフを怒鳴っちまうなんて恥ずかしい事をしたもんだ。すまなかった。時間がある時にまた働きに来て欲しい』と再雇用を約束された。
【ケースその②】
喫茶店の店主は、男爵という貴族であるのに、ここなら他の人に見られないからと、なんと土下座である。
通常はあり得ないだろうがとても丁寧に謝られた。
男爵は『バカ息子が恥知らずなことをした事を許して欲しい』と事情を知らずに首にした事を多額の金を添え謝罪した。
そして二人がいなくなり店の客足が途絶えてしまった現状を説明し『時間がある時でいい。頼むから店を手伝いに来て欲しい』と懇願された。
【ケースその③】
馬車道整備の親方は『小さな石の山の方から貴重な鉱石が沢山見つかって高額で売れたから、そのラッキーさでまた是非ともお願いしたい』とミマの方が菓子折りを頂いた。
それは本当はマミの方なのだが、、、。
【ケースその④】
ファーストフード店の店主は、イセサック領の領主である、とある気弱な伯爵により店が買収されたが、二人を首にした事に激怒され今目の前で土下座しているところである。
◇◇◇◇◇
その後二人が副業に困る事はなくなったが、人の運命における『幸や不幸の偏り』とは少し怖く、そして嬉しいこともあるものだと二人が考えさせられる一連の出来事だった。
この出来事が単なる偶然のラッキーによるものなのか、はたまたこのエルフ達の定められた運命によるものなのかは、ノルン三姉妹の運命の神くらいにしかわからないだろう。
仮にラッキーによるものであるとしたら、今後は是非ともそれを、本業の方でも発揮して欲しいものだ。
マミ『ピース!』
【後書き】
読んで頂きありがとうございます。
ありきたりなアルバイトのお話かと思いますが、ルーン文字をベースにした魔法の呪文など楽しんで頂けましたでしょうか。今回はカタカナでしたがルーン文字の言霊の使い方は新しい解釈の方に近い設定ですのでそうおかしくないのではと思います。
この作品は完全にショートショートで完結ですが、双子は別の作品にも登場しています。
◇◇◇◇◇
埼玉県さいたま市見沼区にある『蓮沼』(作中ハース沼)は、丘陵地が浸食されて形成された谷状の地形である『谷戸』が侵食により出来た農地に適した肥沃な土地を造りますが、以前は『谷戸』により小さな水路と沼地が続く土地であり蓮沼の地名となったそうですが、今はこれといった明確で大きな沼が存在する訳ではありません。
下仁田(作中シャムニータン)のネギは、他の物と比べかなり太めでしっかりとしており、しばらく日持ちします。(一ヶ月〜二ヶ月:箱で貰ってもきっと困りませんよ)
すき焼きに最高にマッチしますが、様々な鍋物に入れてもネギの美味しさを再認識する事でしょう。お勧めは『ネギ焼き』『ネギフライ』『青葉のかき揚げ』でしょうか? 『ネギ焼き』甘くて美味しいですよ。
これらもまた全ての作品内容と同じく私の利害とは一切の何の関係ありませんがw、是非お試し下さい。
Runic
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