僕の部屋に降る雪は、

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 今年は例年以上の冷え込みだという。12月の東京は、それでも僕にとってはたいして寒くはない。 「そっちは?」 「こっちはもう、雪だらけだよ。わたし、毎日雪かきしてる」  ふふ、と楽しそうに君が笑った。  この時期、地元では、辺り一面に雪が降り積もる。空から舞い落ちてきたばかりの白は、耳が痛くなるほどに静かだ。  君と並んで、雪を踏みつけたあの頃を思い出す。ふたりで鳴らした足音や重なる息遣いは、とても微かで愛しかった。  ただ君が欲しくて、焦燥感とともに君の唇に触れた夕暮れ。その先で聴こえた二人の波形が奏でる世界は、胸を締め付けるほどにやるせない、僕らのためだけの音楽だった。  僕はまだとても青くて、夢と君と、両方を抱えてずっと歩いていけるんだと、本気で思っていた。毎朝君の「おはよう」が聞ける日常が、この道の向こうで待っているんだと漠然と信じていた。  ふと、視界が雪に包まれたような錯覚に陥る。僕の中に降り積もった“会いたい”は、二度目の春が過ぎても溶けてはくれなかった。  僕は携帯電話を握りしめ、「いや、雪の話じゃなくてさ」と平坦に笑った。
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