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「前に言ってた彼氏の誕生日は、どうなった?」
「あー、……うん。結局ね、秀介の言うとおり、ライブのチケットにしたの、プレゼント」
「喜んだ?」
「うん、すごく。大成功だったよ」
それでいい。弱い僕のことを、そうやって無邪気に傷付け続けて欲しい。
指先にまだ残っている君の音に、囚われてしまわないように。
「良かった」
呟きながら、薄暗い玄関の底に沈み込んだ。耳にあてた携帯電話は、不自然に生ぬるい。
何度喪失感とともに落ちれば、君を忘れられるのだろう。
耳の奥に残ったままの僕たちの音楽は、いつになったら聴こえなくなるのだろう。
ドアにもたれかかって、ゆっくりと目を伏せた。瞼の裏に、青白い雪が降る。隣を歩く君の横顔が霞んで、古びたホールの天井が浮かんだ。
end.
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