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《チッ、チッ、チッ、チッ―――》
秒針の音がやけにうるさく聞こえるのは、おそらく私だけでは無いだろう。静まり返ったこの空間は今、とてつもない緊迫感に満ちている。その空気感に押し潰されそうになりながら、私は必死で頭をはたらかせていた。
《チッ、チッ、チッ、チッ―――》
落ち着け。まずは落ち着くんだ。
焦る気持ちをおさえつつ、長く息を吐く。
時計を見る。残り時間はあと5分だった。
あと5分しかない。いや、5分もある。
間に合うだろうか。いや、間に合わせなければ。
なんとしてでも、間に合わせなければならない。この5分に、私達のすべてがかかっているのだから。
《チッ、チッ、チッ、チッ―――》
普段通りにやればできるはず。ちょっとトラブルがあっただけで、いや、ちょっとどころかまあまあなトラブルなのだけれど、いやトラブルっていうか、いやいやいや、今はそんなことを考えている余裕すらない。シャープペンシルを握る手に汗が滲む。
カタン、と前方で音がして、視界の隅にシャープペンシルが転がるのが見えた。周辺の人間達は一瞬息をのんで、すぐさま自分の手元に視線を戻す。
完全なるミスだ。奴はもう終わった。残り時間は2分を切っている。
《チッ、チッ、チッ、チッ―――》
まずいまずいまずい。
間に合うか、間に合うのか。
もはや見た目はどうでもいい。全てが間違いなく正確でありさえすればよいのだ。
あーもうどうしてこんなことに。
《チッ、チッ、チッ、チッ―――》
だって5分前にもなって。
《チッ、チッ、チッ、チッ―――》
問題の訂正があるのを忘れてたとか言うから!!
《チッ、チッ、チッ、チッ―――》
あと1分。
《チッ、チッ、チッ、チッ―――》
いそげいそげいそげ。
《チッ、チッ、チッ、チッ―――》
よし、!
「はいそこまで。全員筆記用具を置いて」
試験監督の先生のかけ声とともに、教室の空気が一気に緩む。
私は勝利を確信して、シャープペンシルを机の上に置いた。
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