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そんなこと、忘れていい。
ここは、郊外の山の上に莫大な国家予算を基に建設された、近代建築美の粋を集めたような、とある大学だ。
向かうのは、その研究棟の一室だ。
ひとまず、ここ数日でいろいろあった気分を落ち着かせようと、大学関係者ではない一般人もよく訪れるカフェテラスへと向かった。
ここのカフェテラスには、よく手入れされている芝生のそこかしこに、コンクリートや鉄で鋳造された小振りの近代アートが点在している。
そこの窓際でアイスミントティーをオーダーして、それを飲みながら、時間を確認する。
ベージュのコースターには、このカフェテラスの名称であるmozartの文字が見える。
流れているBGMもmozartの曲だ。
聴き覚えのあるピアノ曲。
あ~何て曲だったかな・・
これ、ユキが好きだったヤツだ・・。
そうそう、ロンドのイ短調だったはずだ。
美しくも物悲しいそのメロディを聴きながら、いつだったかユキが買ってくれたお気に入りの腕時計の文字盤を覗く。
自動巻きのこの時計は、いつも少しだけ遅れる。
まぁ、多少の遅れを考慮しても、十分に間に合うか。
目の前のミントティーを一気に飲み干し、フゥと深い深呼吸をして、自分に気合いを入れた。
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