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首を吊る縄。 なのだろう、これは。 古いのか新しいのか分からない縄。 首を吊る縄と言えば 皆が想像するような縄。 その縄が、 居間の中央にある。 いや、天井から垂れている。 縄の先は首を入れるであろう 輪っかがある。 自分はこれをセットした記憶が無い。 同居人もいない。 おかしい。 仕事から帰ってきたら 見に覚えのない、縄。 部屋を見回しても 朝、家を出たときと変化は無い。 縄以外は。 チッチッチッチッチッチッチッ 静かな部屋は時計の音がよく聞こえる。  寝るときはこの音が心底忌まわしいが、 今はここは自分の部屋だと 思わせてくれる。 縄を観察する。 縄がこちらを 観察しているのかもしれない。 チッチッチッチッチッチッチッ 時計は12:00を指している。 こんな早く帰ってきていたのか。 どうりで部屋に 朝日が射し込んでいない訳だ。 夜を久しぶりに実感した。 縄。 大体の人はこれで首を吊るのだろう。  それ以外に使い道は無いように思われる。 首を通す輪っかは、 中途半端な大きさをしている。 自分の首は通るだろうか。 縄の真下にある椅子に乗り、 単なる興味で首を通してみる。 縄はひんやりとしていた。 少し、心地いい。 このまま椅子を蹴り倒したら 自分は二度と、 怒鳴られなくて済むのだろう。  詰られなくて済むのだろう。 二度と、 死にたいと思わなくて済むのだろう。 それなら 吊ってみるのも良いかもしれない。 瞼の裏に 右足を振り上げて、 椅子を後ろに蹴り飛ばす自分見える。 その後はぐったりとして 縄に揺られてブラブラする。 少しシュールだな。 気づくと、足を振り上げていた。 このまま振り下ろせば、 下ろせば、 … ピーンポーン 客だ。 出なければ。 縄を首から外して、椅子から下りる。 しかし、  こんな時間に誰だろうか。 片付いている、 端的に言うと物の無い廊下を 玄関へ向けて歩く。 そこで初めて、自分は眠くて 腹が空いている事に気が付いた。 冷蔵庫に何かあったかな。 なんて思いつつ、 ドアを開ける。 ガチャリ 外には、 竹中がいた。
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