13話 銀貨の価値 前編

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13話 銀貨の価値 前編

交易都市クーヨン 商店街を行き交う人々は、一人の少女とすれ違う度に注目していた。 ゴシック調のメイド服が、よく似合う美少女だったからだ。 そして、右手と首筋には奴隷の証が刻まれている。 どこの貴族様の召使いなのだろうかと、注目されるのだ。 そんな視線を感じつつ、私は上機嫌だった。 ご主人様が、銀貨1枚を小遣いとしてくれ、今日は店を閉めるから街に出ると良いと、言ってくれたのだ。 束の間の自由と財産を得た私は、何に使おうか思案しながら、商店街を散策する。 「おばちゃん、腰袋あるかな?銅貨を入れる用の」 銀貨を両替する意味も含めて、馴染みの雑貨屋で財布を買う。 馴染みの店なら、両替目的でも嫌な顔はされないだろう。 「アリスちゃん、いらっしゃい。銅貨3枚よ」 お釣りの銅貨97枚を束にして数え、腰袋に入れる。 これで軍資金が揃ったとばかりに、私は駆け足で屋台に向かった。 雑貨屋にご主人様のお遣いで来る度に、焼ける肉の良い匂いがしてたのだ。 「これ、一つ下さい!」 「はいよ、銅貨2枚だよ」 串に刺さった肉を銅貨と交換し、受け取ると食べるスペースを探して、人が少ない壁に背を預けた。 何の肉かも、何の調味料かもわからないが、柔らかく肉汁が口の中に溢れる。 …美味い! 三流レポーターのような率直な感想を残し、商店街の奥へと散策を進める。 八百屋、肉屋、魚屋、果物屋と生活に必要な店から、ジャンクショップのような店を眺めては、進む。 交易都市というだけあって、それぞれの店は卸売市場のように広く、市民と買い付けにきた行商人が店の中で、ごった返していた。 私は一軒の店先で、足を止める。 前から興味があった書店である。 奴隷商人の館では、最低限の文字学習の本しかなかったのだ。 凸版印刷が普及しているようで、書店の本棚にはそれなりの数が並べられていた。 ただ、やはり高価なものなのか、広い店内のカウンターの横だけに本棚が並べられている。 あとは何も置かれてないスペースなのだ。 元の世界の書店のように、とても立ち読みが許される雰囲気ではない。 光の勇者…竜殺しの騎士… 本棚のおとぎ話のコーナーに、目を向ける。 冒険譚だろうか、とても面白そうなタイトルだ。 価格は銀貨3枚… 戦略的撤退である…私は冷やかしと顔を覚えられる前に、店を出た。 そして、商店街を抜け、街の中心部である広場へとたどり着いた。
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