12話 A級錬金術

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12話 A級錬金術

怠惰 七つの大罪の一つだ。 この大罪を背負った人間が、私の目の前にいた。 時刻は昼下がり、我がご主人様は週に1日働き、週に4日はこうしてベッドの上で、ゴロゴロ過ごしている。 「ご主人様、昼食に出かける時間ですよ」 しかし、奴隷たる私にそれを口出しする権利はない。 私の仕事は店番と、昼下がりの目覚まし時計なのだから。 「…お腹空いた…」 「おはようございます」 気怠そうに起き上がるご主人様。 「そういえば先日、常連の騎士様にA級錬金術師の価値を教えていただきました」 曰く、錬金術師は魔術師が鍛錬した後に、開ける道であると。 熟練の魔術師が王都の施設を使い、才能あるものだけが習得できるようだ。 ランクは、C級からA級。 店を開く際は、王国から発行された証明書を、客の見える場所に掲げなくてはいけない。 この店は、入り口の扉をくぐった頭上に貼ってあった。 見える場所だが、見せる気ないだろう、と。 ほとんどは、魔術師を引退したC級錬金術師が店を開くのが一般的で、市場保護の為、ランクによりポーションの最低価格が決まってる。 C級 銅貨10枚〜 B級 銅貨50枚〜 A級 銀貨2〜 効果もランクにより差があり、 ポーション 通称 赤ポーション C級 軽傷回復まで B級 重傷回復まで A級 即時使用なら欠損回復まで マジックポーション 通称 青ポーション こちらは、ランクにより魔力回復量が違う 最低価格で、欠損回復ポーションを販売しているこの店を、ありがたくなるわけだ。 「よく勉強しているわね、それで?」 気怠そうな雰囲気から、少し怒気を含んで流暢に聞かれる。 …それで? 俺の危機感が、ここは答えを間違うなと警鐘する。 「A級錬金術師の証明書を透明竹で挟み保護し、店先に掲げれば、客数は何倍にもなると思案しましたが…」 ご主人様の顔色を伺う、殺気が漏れているのを感じる。 「ご主人様は、静かな暮らしを望んでいると思いますので、特に何もする事はございません。私の給料が増えるわけでもありませんしね」 最後にジョークを効かせて、笑顔で答える。 奴隷の衣食住は主人の義務だが、給料はもちろん無給だ。 「…そうね…」 俺の答えに満足したのか、また気怠そうに答えた。 「…給料…」 そして、何か思い出したのか、そう言って1枚の硬貨を渡してきた。
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