15話 月乃亭

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15話 月乃亭

交易都市クーヨン 内周城壁の中央広場の一角に貴族専用の宿屋、月乃亭がある。 興味本位で入った私は、そこの店員に貴族の遣いと勘違いされるも、誤解を解くついでに、この国の宿屋のシステムを教えてもらったのであった。 整理すると、通常、内周城壁の都市内部に日本のような一般人が泊まれる宿屋は、存在しない。 これは、見知らぬ者が住みつかないようにする治安維持の側面が強い点と、宿屋内の調度品の窃盗や破損の保証金の問題があるようだ。 なので、都市内部にある宿屋は、身分確かな貴族または大商人やそれに準ずる者専用になっている。 では、旅人や商人はどこに泊まるかと言うと、交易都市クーヨンのように内周城壁と外周城壁の幅が広い都市は、そこに隊商宿と呼ばれる酒場や倉庫が一体となった、まさにファンタジー世界の宿屋があるらしい。 城壁が一つしかない都市は、城壁から少し離れた場所にあるみたいだ。 いつか世界を冒険する時に、役に立つなと満足げな笑顔で、私は月乃亭を後にした。 いや、後にしようと思ったのだが、 「あなた、私のものになりなさい」 歳は、私と同じくらいの13か14だろうか? 流れるような金髪のストレートは腰まで伸び、 いかにも貴族様という格好の少女が、意味不明な言葉をかけてきた。 「…どちら様でしょうか?」 頭のおかしい子か、貴族とは頭がおかしいものなのかと考えながら、失礼のないように返答する。 「ノース侯爵家の長女、マリオン・フロレンスよ」 どう?驚いた?とばかりに、名乗りを上げる。 貴族位の違いなんて習ってないぞ、と困惑していると、 「あなたの名前は?どこの貴族の奴隷なのかしら?」 私の右手を見ながら、問いかける。 「アリスと申します。貴族様の奴隷ではなく、錬金術師様の奴隷でございますので…」 「錬金術師?良いわ、お父様にお願いして、あなたを買うように交渉しましょう」 返答に困っていると、彼女は勝手に話を進めてきた。 「あの私を買いたいとは、なぜでしょうか?」 何が目的で、初対面の相手を買いたいと言うのだろうかと問いかけてみると、 「私、可愛いものが好きなの」 満面の笑みを浮かべて、当たり前のように答える彼女に… 私は失礼しますと頭を下げ、一目散に逃げ出した。 俺は、犬や猫のようなペットじゃねーぞ!
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