16話 マリオン・フロレンス

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16話 マリオン・フロレンス

貴族は頭がおかしい、という認識は訂正しよう。 ただ俺の前で、満面の笑みで話しかけてくる彼女は、間違いなく頭がおかしい。 彼女の名前は、マリオン・フロレンス。 アルマ王国の王都の北、ノース侯爵領を治めるフロレンス家の長女だ。 年齢は、私より2つ上の15歳。 ちなみに、ここ交易都市クーヨンは王都の西に位置し、王室直轄領となっている。 王都から近く、東西南北に街道がある為、交易都市として栄えているそうだ。 …なぜ、こんなに知識が増えたって? それは、 「アリスちゃんに、次の質問。五等爵を答えなさい」 「公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵」 一度見聞きすれば、大抵の事は覚えられる頭でそらんじる。 「ではでは、その違いは?」 「公爵は、王族または王国の属国になった元王族。侯爵は、国境隣接地帯の大規模領地を治める武闘派、頭がおかしい。伯爵は、中規模領地を治める王の補佐官、領地を持たないのは宮中伯。子爵は、侯爵、伯爵の寄子であり侯爵領、伯爵領内の都市を治める。男爵は、領内の町や村を治める」 ちなみに爵位は地名を現す為、家名とは別だ。 日本で例えると、東京が王室直轄領。 蝦夷地であった北海道、琉球王国の沖縄が公爵領。 国境隣接ではないが、武闘派っぽい大阪が侯爵領。 その他の県は伯爵領であろうか? 子爵とは横浜市、男爵は箱根町…あくまで例えだが。 「ふーん」 目を細め、見定めるような嫌な笑みを浮かべる。 こいつ絶対Sだろ。 「ねえ、侯爵の説明だけ、頭がおかしいってなに?」 それはこの状況と、この状況に至るまでを思い出す。 彼女がいるのは私の職場、錬金術師エリーの店である。 ただ店先には、クローズの看板が下げられ、彼女の護衛である怖いお兄さんが2人、歩哨に立っている。 別に店が、制圧されたわけではない。 月乃亭での、初めての出会いが三ヶ月前、一目散に逃げ出した数日後に、怖いお兄さんを連れて彼女は店に現れた。 まあ、怖いお兄さんは、柄が悪いわけではない。 ただ完成された衛兵なのだ。 そして、我が主人と対面する。 いったい、どんな展開になるかと思っていたら、 「エリー先生?」 我が主人は、どうやらマリオンの家庭教師をしていた事が、あったらしい。 私の買取を申し入れ、断られるマリオン。 だが、諦めきれないのか、彼女は貴族らしい方法で、つまり金の力で、店を貸し切りにする約束を結んだ。 我が主人は、金には興味なさそうだったが一言、 「…おもしろい」 と、呟いていたのを覚えている。 それから三ヶ月、暇を見つけては店を貸し切りにしていた。 猫をあやすように、俺の頭をなでる彼女。 ここは、猫カフェではないはずなのだ。 やはり彼女は、頭がおかしい。
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