17話 ノース侯爵令嬢

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17話 ノース侯爵令嬢

ノース侯爵 アルマ王国の北部、国境隣接地帯を領地とする貴族だ。 爵位は公爵に次ぐ、侯爵位。 公爵が、王族または属国となった元王族である事を考えると、貴族位としては最高位に当たる。 侯爵と名がつく条件としては、いつ戦争が発生してもおかしくない国境隣接地帯である事と、大規模な領地である事が一般的らしい。 そんな侯爵令嬢が、錬金術師エリーの店内、俺の横に座っていた。 「こう何度も来て、他愛ない話をして、飽きないのですか?」 「飽きないわね?飽きたら、捨てるし」 即答すると共に、サラッと毒を吐く。 「私のどこが気に入ったのでしょうか?」 「まずは…見た目ね。綺麗な黒髪に黒目。まるでお人形さんみたいな顔」 そう言うと彼女は俺の顔に手を伸ばし、頬を撫でる。 「でも、最近もう一つ増えたの。奴隷なのに卑屈じゃないところ。アリスちゃんを屈服させたら、もっと楽しそう」 そして、頭のおかしい事を平然と言うのであった。 「屈服ですか…」 「ええ」 「例えば、どのように?」 この頭のおかしい子は、何を考えているのだろうか。 「そうね…」 マリオンが、俺の顔と身体を舐めるように見てくる。 この子もそれなりに整った顔をしているのだが、なぜか身の危険を感じる視線だ。 「私のものになった時に考える楽しみにしとくわ」 獲物を料理するような、官能的な表情で告げられた。 そんな表情を見て、私の顔は引きつっていたのだろうか、 「アリスちゃんは、今の生活が気に入っているの?」 彼女は、話題を変えてきた。 「ご主人様には、よくしていただいています。それに買われた身として、選べるものでもありませんし」 飼われている身なら、どこに行っても変わらない。 それなら、頭のおかしい少女より、怠惰なご主人様の方が無害だろう。 そんな打算的な事を考えていると、 「私なら、あなたの望みを叶えてあげられるわ。試しに言ってみなさい。その身と引き換えに、何を望むかを」 芝居掛かった動作で、楽しむように彼女は手を差し出した。 「そうですね…力が欲しいですね」 だから、俺も彼女のお遊戯に乗ってみた。 ほんの少しの期待を込めて。 「力ね?権力かしら?腕力かしら?能力かしら?」 面白い言葉を聞いたとばかりに、嫌な笑みを浮かべる。 彼女は、おもちゃで遊んでいるのだろう。 だから、私も笑みを浮かべて返した。
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