3話 スカイブルーの君

1/1
前へ
/110ページ
次へ

3話 スカイブルーの君

「クロくんって、だいぶ言葉がわかるようになったよね?」 「努力したからな」 夕食が終わり、大部屋の中で彼女と話す。 これまでも訓練が一緒になると話しかけられたが、ここで何十戦目か、とうとう俺の防御陣が突破されてしまった。 「すごい頭が良いんだね 商人さんのところに行けるかな?」 「…どういう意味?」 「あ、クロくんは知らないのかな? ボク達みたいのは誰かに買ってもらうんだよ」 「それは知ってるさ」 ただ、詳しくこれからどうなるかは知らないと伝えると、彼女は所々脱線しながらも教えてくれた。 整理すると、奴隷はオークションと個別販売がある。 大人は教育しても成長の幅が小さいから、ここのように教育するのは子供のみ。 優秀、または顧客の要望があれば、希望の顧客に個別販売だが、大抵はオークションらしい。 奴隷という身分はこの国では珍しくはなく、貧しい農村では普通に子供が売られるらしい。 ちなみに彼女の場合はこのケースであり、俺のようにスラム街で連れていかれるのも、珍しくはないようだ。 確かにあのままスラム街にいても、のたれ死んでいたから、強引な救済と言えば救済かもしれない。 「ボクはね、剣士になりたいんだ 誰にも縛られない自由な剣士」 そう言った彼女は、少し悲しそうに見えた。 ここに自分の意思で来るやつなんて、いないからな。 「剣士っていうと冒険者か?」 「冒険者?…うーん?」 「魔物と戦ったりするんだろ?」 魔物がいる事は訓練で知ったから、冒険者的なギルドがあって冒険者がいてと思ったが、どうも彼女の反応から何かが違うらしい。 「魔物と戦うのかな? 冒険者ギルドって身分がない人が行く所って聞いたよ」 「身分か…うん?この世界でどうやって身分を証明するんだ?」 前の世界なら、マイナンバーカード、運転免許証、戸籍と自分がどこの誰かを証明するものがあった。 「うーん、クロくんの話は難しくてわからない!」 「あー、例えば門にいる兵士が、どこの誰かって事」 「そんなの街の人が知ってるよ」 いや、それはそうだろうけど、とツッコミそうになる。 「その兵士の人が、他の街に行った時は?」 「知り合いがいない街なら、誰も知らないよ?」 何を当たり前の事を聞くんだろうと返される。 「もしかして、普通の人って自分の街や村から出ない?」 「うーん?ボクの村は、他へ移り住む人はいなかったかな?」 どうも会話が噛み合わない。 というか、前の世界の常識で話してるせいなのは、ハッキリしているのだが。 「もし俺が大人になって、誰も俺を知らない村に住もうとしたら、どうなる?」 「盗賊かもしれないのに無理だよー クロくんって頭良いのに変な事聞くね」 ああ、なるほど…理解した。 身分証明がないから、そこに住もうとしたら、信頼から始めないといけないのか。 となると、よそ者が仕事に就く事自体が、難しいのかもしれない。 彼女が言うように、盗賊かもしれないのだから。 「なるほどね、それで剣士ってどうやってなるの?」 「傭兵団の見習いで買ってくれる人がいたらね 腕を磨いて独立するの!」 「傭兵が夢って事か」 「領主様に雇ってもらって、いっぱい稼ぐ! クロくん頭良いから、雇ってあげるよー」 「はは、その時はよろしく頼むよ」 頭が良いって、攻撃の方が才能あるはずなんだけどね。 言葉を覚えて、やっと棒振りから始めたんだ あの才能の数値が、どう影響を与えるのかわからないけど。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加