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3話 スカイブルーの君
「クロくんって、だいぶ言葉がわかるようになったよね?」
「努力したからな」
夕食が終わり、大部屋の中で彼女と話す。
これまでも訓練が一緒になると話しかけられたが、ここで何十戦目か、とうとう俺の防御陣が突破されてしまった。
「すごい頭が良いんだね
商人さんのところに行けるかな?」
「…どういう意味?」
「あ、クロくんは知らないのかな?
ボク達みたいのは誰かに買ってもらうんだよ」
「それは知ってるさ」
ただ、詳しくこれからどうなるかは知らないと伝えると、彼女は所々脱線しながらも教えてくれた。
整理すると、奴隷はオークションと個別販売がある。
大人は教育しても成長の幅が小さいから、ここのように教育するのは子供のみ。
優秀、または顧客の要望があれば、希望の顧客に個別販売だが、大抵はオークションらしい。
奴隷という身分はこの国では珍しくはなく、貧しい農村では普通に子供が売られるらしい。
ちなみに彼女の場合はこのケースであり、俺のようにスラム街で連れていかれるのも、珍しくはないようだ。
確かにあのままスラム街にいても、のたれ死んでいたから、強引な救済と言えば救済かもしれない。
「ボクはね、剣士になりたいんだ
誰にも縛られない自由な剣士」
そう言った彼女は、少し悲しそうに見えた。
ここに自分の意思で来るやつなんて、いないからな。
「剣士っていうと冒険者か?」
「冒険者?…うーん?」
「魔物と戦ったりするんだろ?」
魔物がいる事は訓練で知ったから、冒険者的なギルドがあって冒険者がいてと思ったが、どうも彼女の反応から何かが違うらしい。
「魔物と戦うのかな?
冒険者ギルドって身分がない人が行く所って聞いたよ」
「身分か…うん?この世界でどうやって身分を証明するんだ?」
前の世界なら、マイナンバーカード、運転免許証、戸籍と自分がどこの誰かを証明するものがあった。
「うーん、クロくんの話は難しくてわからない!」
「あー、例えば門にいる兵士が、どこの誰かって事」
「そんなの街の人が知ってるよ」
いや、それはそうだろうけど、とツッコミそうになる。
「その兵士の人が、他の街に行った時は?」
「知り合いがいない街なら、誰も知らないよ?」
何を当たり前の事を聞くんだろうと返される。
「もしかして、普通の人って自分の街や村から出ない?」
「うーん?ボクの村は、他へ移り住む人はいなかったかな?」
どうも会話が噛み合わない。
というか、前の世界の常識で話してるせいなのは、ハッキリしているのだが。
「もし俺が大人になって、誰も俺を知らない村に住もうとしたら、どうなる?」
「盗賊かもしれないのに無理だよー
クロくんって頭良いのに変な事聞くね」
ああ、なるほど…理解した。
身分証明がないから、そこに住もうとしたら、信頼から始めないといけないのか。
となると、よそ者が仕事に就く事自体が、難しいのかもしれない。
彼女が言うように、盗賊かもしれないのだから。
「なるほどね、それで剣士ってどうやってなるの?」
「傭兵団の見習いで買ってくれる人がいたらね
腕を磨いて独立するの!」
「傭兵が夢って事か」
「領主様に雇ってもらって、いっぱい稼ぐ!
クロくん頭良いから、雇ってあげるよー」
「はは、その時はよろしく頼むよ」
頭が良いって、攻撃の方が才能あるはずなんだけどね。
言葉を覚えて、やっと棒振りから始めたんだ
あの才能の数値が、どう影響を与えるのかわからないけど。
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