4話 奴隷紋 前編

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4話 奴隷紋 前編

その日は大雨だった。 朝から2階の勉強部屋で、この世界の文字を記憶する。 そして、腹時計が夕方を告げようとした頃には、食堂に呼ばれていた。 「今日も芋か」 商人と思われる男から運び上げられた、樽いっぱいの芋を見て呟く。 皮むきがされた芋と、なんの葉かわからない山菜。 調味料は塩しかなく、刃物は武器になるからか、調理器具はすり潰し用の棒しかない。 週に数度は切り分けられた肉が入るが、今日はハズレの日のようだ。 … …… ……… いつものように質素な夕飯の後は、大部屋で思い思いに会話が広がっている。 もちろん俺は独りと言いたいところだが、 「やめた方がいいよー」 「いや、こんな大雨の日だぜ?バレないって」 スカイブルーの少女と金髪の少年が俺の前で、先程から言い争っている。 「クロくんも、やめた方が良いと思うよね?」 なにを?と言いたいところだか、こんな至近距離で騒がれたら嫌でも聞こえる。 この金髪の少年…歳は16らしいが、この教育工場を脱出しようとしているのだ。 教育工場とは俺が呼んでるだけで、四方を2m程の壁に囲まれた2階建の屋敷である。 2階は奴隷達の食堂と、寝る為の大部屋と書物を備えた勉強部屋になっており、1階は奴隷商人と教官の部屋がいくつかある。 屋敷から門の間には中庭があり、剣の訓練や運動はここで行う。 ちなみに奴隷商人と教官が2人、門番に兵士が2人の警備体制である事は把握した。 奴隷の少年少女は10人。 つまり警備はザルなのだ。 逃げ出せるものなら、どうぞという形である。 だからこそ、この奴隷紋の不明効果が恐ろしい。 「自分で決める事だろう」 「…クロくん!」 なぜ、止めないの?と非難の目を向ける。 彼女はバカではないらしい。 「俺は決めた!やるぞ!」 そして、勇敢な金髪の少年が一人。 だから、俺は言った。 「…手伝うよ」 と、笑顔で。
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