40人が本棚に入れています
本棚に追加
5話 奴隷紋 後編
笑顔とは、コミュニケーションの一つであり、相手に敵意や害意がない事を示す交渉術だ。
金髪の少年に笑顔で伝えると彼は早速、段取りに入った。
スカイブルーの少女は、初めて見せた俺の笑顔に言葉がなくなったらしく、もう知らないと言いその場を離れた。
おまえは一緒に脱出しないかと聞かれたが、臆病だからと断ると、
「それで、どう手伝ってくれるんだ?」
「外の壁を登るのに、俺を踏み台にすればいいさ」
「ああ、いや、あのくらいの壁なら俺一人で越えられる」
もともと一人でもやろうとしてたのだから、そうなのだろう。
「なら、上から見張って、もしもの時は引きつけて時間を稼ぐよ」
「そうか、ならその時は頼むぜ」
そう言うと、少年は大部屋を出た。
俺もその後に続く。
…自分が嫌なやつだとは思わない。
廊下を出て、無防備な2階の窓を二人でくぐる。
1階の屋根の上に出ると、大雨に吹きさらされながら、俺は配置に着く。
…人は他人に対して冷たく、利己的なのだから。
彼は屋根の上から飛び降りると、屋敷の裏手に出る。
雨音が、全ての音を消してくれる。
目の前には2m程の壁。
…俺はただ、合理的な判断を下しただけだ。
金髪の少年は助走をつけると、ひとっ飛びで壁の上に手をかける。
素早く壁をまたぐと、こちらを見る。
瞳が交差する。
…奴隷紋をつけた者が、この壁を越えると何が起こるのか。
少年は笑顔を見せ、手を挙げると壁の外に降りた。
一瞬、壁に隠れて姿が消えたが、すぐに壁の外の先に現れる。
…何も起きない?
そして、外の世界に向かって走り出す。
壁から離れて数m、少年の身体が電撃を受けたように光った。
…やはり、仕掛けがあるのか。
同時に屋敷の門が赤く光る。
それを見た兵士が外に出て、外壁を沿うように歩き始めた。
…死んだか?
金髪の少年を観察する。
少年は起き上がろうと、もがいていた。
それを冷静に観察する。
外壁を沿うように歩いていた兵士に、少年が回収されるまで。
その日は大雨だった。
雨音は、全ての雑音を消してくれた。
次の日、金髪の少年は出荷された。
最初のコメントを投稿しよう!