5話 奴隷紋 後編

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5話 奴隷紋 後編

笑顔とは、コミュニケーションの一つであり、相手に敵意や害意がない事を示す交渉術だ。 金髪の少年に笑顔で伝えると彼は早速、段取りに入った。 スカイブルーの少女は、初めて見せた俺の笑顔に言葉がなくなったらしく、もう知らないと言いその場を離れた。 おまえは一緒に脱出しないかと聞かれたが、臆病だからと断ると、 「それで、どう手伝ってくれるんだ?」 「外の壁を登るのに、俺を踏み台にすればいいさ」 「ああ、いや、あのくらいの壁なら俺一人で越えられる」 もともと一人でもやろうとしてたのだから、そうなのだろう。 「なら、上から見張って、もしもの時は引きつけて時間を稼ぐよ」 「そうか、ならその時は頼むぜ」 そう言うと、少年は大部屋を出た。 俺もその後に続く。 …自分が嫌なやつだとは思わない。 廊下を出て、無防備な2階の窓を二人でくぐる。 1階の屋根の上に出ると、大雨に吹きさらされながら、俺は配置に着く。 …人は他人に対して冷たく、利己的なのだから。 彼は屋根の上から飛び降りると、屋敷の裏手に出る。 雨音が、全ての音を消してくれる。 目の前には2m程の壁。 …俺はただ、合理的な判断を下しただけだ。 金髪の少年は助走をつけると、ひとっ飛びで壁の上に手をかける。 素早く壁をまたぐと、こちらを見る。 瞳が交差する。 …奴隷紋をつけた者が、この壁を越えると何が起こるのか。 少年は笑顔を見せ、手を挙げると壁の外に降りた。 一瞬、壁に隠れて姿が消えたが、すぐに壁の外の先に現れる。 …何も起きない? そして、外の世界に向かって走り出す。 壁から離れて数m、少年の身体が電撃を受けたように光った。 …やはり、仕掛けがあるのか。 同時に屋敷の門が赤く光る。 それを見た兵士が外に出て、外壁を沿うように歩き始めた。 …死んだか? 金髪の少年を観察する。 少年は起き上がろうと、もがいていた。 それを冷静に観察する。 外壁を沿うように歩いていた兵士に、少年が回収されるまで。 その日は大雨だった。 雨音は、全ての雑音を消してくれた。 次の日、金髪の少年は出荷された。
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