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6話 才能と別れ
木と木が打ち合う音が響く。
黒髪の美少女と空のような青髪の少女が、お互いの間合いに入る度にまた一つ。
そして、黒髪の美少女が青髪の少女の間合い深くに入った時、勝負は決していた。
「クロくん、また最後わざと受けたよね?」
「…ははは」
笑って誤魔化すが、木刀の一撃程度では最近痛みを感じなくなってきた。
スカイブルーの少女に、友人という間合いに入られてから半年、模擬戦を行なってきた。
俺は13歳、彼女は14歳。
攻撃30、防御20、速さ20の才能値は本物なのだろうか模擬戦を重ねて数ヶ月で、彼女との才能の違いを実感する。
彼女に才能がないわけでは、ないと思う。
周りの模擬戦を見ても、彼女の動きは天性を感じる。
ただそれ以上に自分の才能…成長率の高さを、身体の動き、動体視力、そして打撃に対する耐性に驚いた。
ちなみに数値化されてると良いなと思い「ステータス オープン」と唱えたのは秘密だ…
「なんか、かなり前から手抜きされてる気がするー?」
「…ははは」
実際、かなり手抜きをしているから、笑って誤魔化すしかない。
これは、彼女の為になるのだから。
何ヶ月前かに数度、そして最近は頻繁に教官の横に見慣れぬ赤髪の女性がいた。
俺の勘が正しければ…
「あれ?ボク呼ばれてるみたい」
「行っておいでよ」
…
……
………
素振りを繰り返し、夕飯が終わり部屋に戻ると、彼女がそこにいた。
「クロくん、ボク…」
嬉しそうな寂しそうな表情で、話し出す。
「傭兵団には買ってもらえたの?」
「なんでわかったの⁉︎」
「特殊な子が売られる時は、その子を見にくる人がいるからね。それはわかるよ」
俺を見ているのか、彼女を見ているのか判断ができなかったから、手を抜いた。
俺には商人に売り先があると、教官から聞いていたしね。
「おめでとうと言えば良いのかな?」
「ありがとう、クロくんは…」
「俺も、もうすぐ商人に売られるらしいよ」
「クロくんなら、きっと剣士になれるよ!」
彼女は、もったいないと呟く。
「この国の常識もわからないからね。もう少し覚えて、その先に選べる道があったらかな」
わけもわからず、こんな場所に叩き込まれて、従順な犬になる教育を受けたけど、俺の才能は物理職なはずだ。
今はこの国の環境で、生きる為に牙を研いでやる。
「ボクは剣士になるよ。ボクを買ってくれた人が、才能があるって言ってくれたんだ」
「ああ…」
頑張れよとは、なぜか言う気になれなかった。
「あとね、クロくんさっき傭兵団って言ったけど、傭兵団じゃなくて、女性の傭兵の人だよ」
「…?」
それは、何が違うんだと疑問にすると
「傭兵が奴隷持ちで食べていけるって、凄腕って事だよ!女性だから、身の回りの世話に女の子の見習いが欲しかったのもラッキーだったの!」
「ああ、集団よりソロの方が、ランクが上って事か」
「それでね、クロくんも買おうって聞いたんだけど、男の子とは思わなかったんだってー」
何が面白いのか笑いながら、俺の顔を指差す。
キャラクターメイキング…失敗してない…はず。
その後も昔話というには、1年もない少し前の話で盛り上がり…
「ねえ、ボクの名前…呼んだ事ないけど、覚えてる?」
「…いや」
商品の名前は、覚えないようにしている。
ただ、この商品はモノとして認識するには、少し友人になりすぎたかもしれない。
傭兵なんて、死と隣り合わせの職業なのだから。
そんな悲しい感情が表情に出たのか、彼女は少し考えてから、ゆっくりと言った。
ボクの名前は アイリス 次は忘れないでね
と。
そして、次の日、彼女は出荷された。
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