7話 出荷

1/1

40人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ

7話 出荷

人生で面接される機会が、何度あっただろうか? 進学?就職? 人によって数は違うものの、重要な点は共通している。 自分という商品の価値を、返品をくらわない程度に過大評価で認識させる事だ。 なぜ、こんな事を考えてるかって? 今、俺は奴隷という商品で、面接を受けているからだ。 売り込み失敗後の行き先は、あまり考えたくない… 「歳はいくつだね?」 「13になります」 「暗算ができると書いてあるが、試しても?」 「はい、問題ありません」 履歴書のようなものを見ている40歳ほどの商人に、基本的な事から聞かれ、猫を被って答える。 その後も無難なやり取りを続け、好感触を得たところで… 「住み込みだから、私のベッドに一緒で問題ないな?」 「…俺は男ですが?」 「男か…いや、それだけ美しければ男でも…」 「刺し違えてもよろしいなら…」 軽く殺気を込めて睨みつける。 商人は引きつった顔で、部屋を出て行った。 ああ、これで3度目だ… 頭を抱える… 皆が俺の顔を見て気に入るが、男だと知って幻滅する者、先程のような反応をする者… だが、尊厳が失われるようでは、戦うか死ぬかしかないじゃないか。 そして、4人目の面接が始まった。 部屋に入ってきたのは、20歳前後の黒髪の女性であった。 「…エリー…」 「よろしくお願いします」 エリーと名乗った女性は、感情のこもっていない声で名を告げる。 … …… そして、沈黙… 一見、商人よりも魔法使いに見える彼女はただ沈黙して、こちらを見ている。 「あの?エリーさんは商人ですか?」 「…錬金術師…売り子を探してるの…」 錬金術…この世界では初めて聞く言葉だが、前の世界の知識から推測するに… 「それはポーション等を作るから、販売する人手が欲しいという事です?」 「…賢い子…言葉覚えて…1年?…」 感情の起伏が、少ない人なのだろう。 履歴書のようなものを見ながら、呟く。 「はい、こちらの言葉を覚えて1年です」 「…こちらの…あなたの国の言葉…話して」 『こっちの言葉は長く使ってますが、通じないですよね?』 日本語で話しかけてみるが、 「…聞いた事の無い言葉…」 まあ、元の世界でも日本語はマイナー言語寄りの方だが、改めて異世界というかそういうものを実感する。 「…面白い…右手を出して…」 彼女に言われて右手を出すと、手を握られた。 黒髪のよく見ると整った顔のエリスさんと、目が合う。 …なんだかドキドキしてきた… と、思った瞬間、 「いてっ!!」 身体に電流のような激痛が走った。 「…魔力感度も…高い?」 「…それに…その瞳…」 そんな激痛が走るはずがないという顔をして、初めて彼女が少し驚いている。 「…あなた…買うわ…」 そして、勝手に呟いて部屋を出て行ってしまった。 誰が買うかなんて、俺に拒否権はないから良いんだけどね… その後、商人の下働きは成り手が少ないのか俺が人気なのか、2人と面接をした。 最初の話に戻そう。 自分という商品を売りたくない時は、逆をすれば良い。 そうすれば、 「…あなたを買った…エリーよ…」 売りたい所に、行けるかもしれない。 「…あなた…名前は?」 「名前はありませんが、友人にはクロと呼ばれてました」 「…アリス…今日から…アリス…」 彼女の口から、女の子の名前を告げられる。 「俺は男ですが?」 「…売り子は女の子…アリスなら女装で…売れる」 説明不足すぎる気がするが、女の子が売り子なら商品が売れる、俺に女装をさせれば、女の子に見えるから問題ないと言いたいようだ。 「アリスの名前の由来を、聞いてもよろしいですか?人気のある女の子の名前とかです?」 「…去年死んだ…猫…」 抑揚がないから、感情が読み取りにくい… この人どうやって、今まで生活できたんだろう? そんな不安を抱えながら、俺は出荷された。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加