8話 交易都市クーヨン

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8話 交易都市クーヨン

一年と少しを過ごした見慣れた屋敷を背に、エリーの後ろに付き従うように外へと続く中庭を歩く。 そして、門が開かれ、エリーが境界を越えた。 俺は境界の境目で、足が止まる。 前に境界を越えた少年の事を、思い出してしまった。 「…?」 「…範囲と効果を変えたから、何も起こらないわ…」 そう言うとエリーは立ち止まる俺の手を引き、俺は境界を越えた。 もちろん、何も起こらない。 ただ思い出して、足が止まってしまったのだ。 「あの、範囲を変えたとは?」 その言い方だと、奴隷紋の効果自体は活きているようだ。 エリーに引き渡される時、奴隷商人とエリーが奴隷紋に魔法的な何かをしていた事と関係するのだろう。 「…奴隷紋の効果を教えてあげる…」 「…範囲はこの都市の外周城壁の中…そこから外に出ると、奴隷紋の色が変わる…城壁の中なら、位場所が契約者にわかる…」 「色が変わるだけなのですか?命令に絶対服従のような効果はないのです?」 エリーの横に並び歩きながら、質問する。 そんな簡単な縛りしか、ないのだろうか? 「…色が変われば逃亡奴隷…位場所などない…絶対服従の契約魔法…面白そう…」 面白い発想をするとばかりに、エリーはクスリと笑った。 なるほど。 一目で逃亡奴隷とわかるから、社会的に死ぬという事なのだろう。 そして、奴隷紋は制約というより、魔法の一種を奴隷紋として利用しているようだ。 …となると、範囲内はどうやって指定しているのだろうか? まさか、軌道衛星を利用したGPSなどないと思うが、 「範囲を指定する仕組みは、どうなってるのです?」 頭の中の考察を元に、疑問を口にするとエリーは驚いた顔をして、城壁と屋敷を囲う壁を指指した。 「…壁の四方に魔法具が埋め込まれ…領域を設定…あなたなら、わかる?」 少し楽しそうな表情と、億劫で言葉足らずな喋り方が少し流暢になる。 それを聞き、俺は二つの事に気付いた。 一つは、この奴隷紋の魔法原理。 四方に魔法具を置き、奴隷紋というマーキングをつける事で、標的の位場所がわかるサーチ魔法。 そして、魔法具の範囲外に出た時、奴隷紋の色を変えるカラー変更魔法。 おそらく奴隷紋は、この魔法の組み合わせだろう? 効果を変えたという事は、金髪の少年や教育工場にいた時の奴隷紋には、範囲外に出ると行動不能になる電撃魔法のようなものが、仕込まれていたのかもしれない。 知力才能の高さからか、この身体の脳はとても優れている。 そして、もう一つ。 このエリーという女性は、面倒くさがりなだけで、普通に喋れるのを、わざと単語で省いているのだ、きっと。 「理解しました」 「…賢い子」 そんな会話をしながら、丘の上にあった屋敷を降ると 「ここがクーヨン…交易都市クーヨンよ」 そう彼女が言った先には、中世を思わせる中規模な街並みが見えていた。
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