夏のおわり

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 昨日、僕は塾を休んだ。  勝手に休んだから、塾の先生が家に電話してきて、すぐにお母さんにばれた。  ゲームをしていたら行くのを忘れたと言ったら、お母さんは信じてくれたけど、お父さんは結構心配していた。  なんでこうなっちゃったんだろう。  僕は最近いつも考えている。  考えても考えても答えはわからない。  お正月は、ふつうだった。  じいちゃん家に行って、ばあちゃんの作ったお雑煮を食べた。「また夏休みに」と言い合ってバイバイした。  それなのに、夏休みになったのに、じいちゃん家には行けないと言う。プールもなし。海もなし。遊園地も水族館もダメ。  今年はすごく変だ。  生まれて初めて義理じゃないっぽいバレンタインデーのチョコをもらったのに、お返しもあげられなかった。学校が休みだからって、お母さん同士が勝手にお返しはなしにすると決めちゃったんだ。  学校が始まっても遠足がなくなったし、オリンピックもなくなったのに、学校はある。去年は夏休みだったころまで行かなくちゃなんない。  今ごろ僕は、じいちゃん家に行ってたはずなのに。  今年が最後の夏だったのに!  また来年だなって、クラスのやつらは知ったように言うけど、僕に来年はない。4年生になったら、中学受験のための勉強が本格的に始まるからだ。  今だって塾に通ってるけど、来年からは合宿もあるし、寝る間を惜しんでがんばるやつだけが、生き残る世界なんだって塾の先生は言う。  だから、僕に残された夏休みは、今年だけだったんだ。  それなのに……!  いつの間にか塾のある駅前まで来いていた。僕は塾の入ってるビルを見上げる。  小さな教室には、そろそろクラスメイトが集まってきているだろう。3年生のうちから受験コースに入ってるやつらは物知りで、おもしろい。  でも、今はおしゃべり禁止。お弁当の時間もだんまりだ。  そんなの面白くない。  ぜんっぜん面白くない!  僕はふいっと方向転換すると、ビルには入らないで駅の向こう側へと歩き出した。  ずんずん歩いていると、汗が目に入ってしみた。痛くて涙が出てくる。リュックに吊るしてあるタオルでゴシゴシ拭いたけど、流れてくるものは止まらなかった。  ほんっと嫌になる。  僕はどしどし歩く。  今の僕は、正義のロボットの歩き方じゃない。怪獣の歩き方だ。  のっしのっし。  街中に火を吹いてやりたい。  そしたら、全部終わりだ。世界が破滅するんだ。  世界の終わりみたいだよなって、誰かも言ってた。  だったら、僕が壊してやる!
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