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第二章 大海原をゆく船 第一節 破壊工作 その1
「バカヤロー! スーレー! フィン・スタビライザーを固定させろ! でないと波の衝撃でフィンの根本が折れちまうぞ!」
雨風が甲板を叩き付ける中、船の機関室からレッドンの怒鳴る声が伝声菅から聞こえてきた。
「わかってる! 今、修理中だ!・・・誰かが制御盤の中にガラクタを押し込みやがった!配線が曲がってショートしてやがるんだ!!」
普段は寡黙な水夫スーレーも怒りの声を上げて、伝声菅に向かって返答する。
今、船は南南東に向かって航行中だったが、超大型ハリケーンに見舞われ、海は大シケ、十数メートルの巨大波のうねりに走砂艇ドマーロは上へ下へと翻弄されていた。
「レッドン! エンジン出力変化をもっと速くできないか?! 推力不足で船が沈没するぞ!」
操舵室の総舵輪を素早く回転させながら航海士のオレージナも伝声菅に向かって叫ぶ。
「無茶言うな!オレージナ!これがこのエンジンの調整の限界だ!」
そう言いつつもレッドンはセンサーが捉える海面とダブルスクリューとサイドスラスターの位置を的確に予測し、エンジン出力を全開から超低出力まで素早く切り替える操作を何度も繰り返していた。
船が波の底で海にどっぷりと漬かったらエンジンを全開にしてスクリューをぶん回し、船が波の頂上まで持ち上げられたらエンジンを超低出力にしてダブルスクリューの空中での負荷無し空回りを防ぐ動作の繰り返しだった。
だが、波は予測しがたい挙動を示し、ときおり三十メートルを超える三角波が船を側面から襲い、そのたび船は木の葉のように大きくローリングするのであった。
「カッパード! 左舷! サイドスラスターON!!・・・今度は右舷ONだ!!」
船長のパプラが船の傾きに応じて伝声菅に向かって素早く叫ぶ。
そんな彼らの大波との必死の攻防を見つつ、ブルアンは大きく揺れ動く操舵室の一角の金属ポールにしがみついて床に叩き付けられないようにすることで精一杯であった。
ふと、ブルアンの脳裏に一昨日の出港直後の海の情景が浮かんできた───
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