第二章 大海原をゆく船 第五節 フレイング・デッチマン号 その6

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第二章 大海原をゆく船 第五節 フレイング・デッチマン号 その6

 一体何が起こったのか?  グリンドーが十字架から素早く身を引いたときに彼は見た。  水夫の切り裂かれた腹の中に、わずかに鋭いメスが光っていた光景を───だが、すぐに見えなくなった。 「?どういうことだ?!・・・これは?!」  訳のわからない恐怖とともに、さすがのグリンドーも叫ぶように口走しり、息絶えたであろう磔の水夫からすばやく身を引いた。  その様子を見たオレージナはピストルをカッパードのこめかみに突き付けて早口で聞く─── 「おいっ!カッパード!あれは一体何だ?!」 ───  オレージナも緊張のあまり、普段とは違う口調となっていた。 「ヘヘヘッ」  カッパードが薄笑いを浮かべつつ答える。 「グリンドーが探していた女の船員さ・・・我らのネルゼス様さ」  スーレーもカッパードに合わせて不気味な薄笑いを浮かべ付け足す。 「たぶん・・・ホルア様とアルネラ様もすぐに来るだろうよ」 「な・・・んだって?・・・アルネラ?」  アルネラという名前に何か思いあたることがあるのか、グリンドーは目を大きく見開き、スーレーの顔をのぞきこんだ。  そのとき、グリンドーの肩口を見ていたオレージナが叫んだ。 「グリンドー!首だっ!」  オレージナの言葉に反応したグリンドーは、右首すじに感じた殺意の気配より、生身の右腕で瞬間的に首をガードした。 『グサッ!』  グリンドーの右手首に鋭いメスが突き刺さり、彼は左腕のカニ鋏でそのメスの柄あたりの空間を挟み込む。  瞬間───何か、スライムのようなゼリーのような手ごたえを左手の義手で感じたが───すぐにカニ鋏は何もつかめずに空を切っていた。 (なんだ?!今の感触は?)  グリンドーは攻撃のあった右側の空間を鋭く見回したが、赤外線暗視ゴーグルで捉えられるような人影は皆無であった。 (一体、誰がこのメスを刺した?!)  グリンドーは左手のカニ鋏で右手首のメスを引っこ抜いたが、おかげで鮮血が噴出してきた。 (くそっ!!)  そのとき、今度は膝だけで甲板に立っているオレージナのむき出しの太ももの内側に鋭いメスの刃が光る光景をグリンドーは見た。
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