第二章 大海原をゆく船 第五節 フレイング・デッチマン号 その7

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第二章 大海原をゆく船 第五節 フレイング・デッチマン号 その7

 ケルガの声にいち早く反応したのは───なんと、ブルアン少年であった。  この航海の直前に、彼はケルガに脅されて拉致(らち)されかけたのだが───今は、自分と年の近い少女が死の危機に直面している───彼は考えるより先にケルガが架けられている十字架に飛びついた。  小さい頃から木登りが得意だったブルアンの両手の爪は、放射性天然痘ウィルスRAVV2051による遺伝子異常で、リスのような鋭いかぎ爪となっている。  その爪を使って器用に十字架に這い登り、ケルガの腕の部分のロープを切ろうと試みた。  ───といっても、彼はジャックナイフ一つ持ってはいない───だが、彼にはげっ歯類の鋭い前歯がある───今、それがついに役に立つときが来たのだ。  彼が素早く右手のロープを噛み切って解きかけたとき、スライム状の女の船員『ネルゼス』の手首が握る鋭いメスがブルアンの足首に迫っていた。  だが───スライム女『ネルゼス』は先ほど浴びたグリーン蛍光液をまだ十分に排出できておらず、その居場所が容易に突き止められ、疾風のごとく駆け寄ってきたグリンドーの握る剣によって、そのメスをはじき飛ばされてしまった。 「ぐわあーっ!!」  どこからともなく叫び声が聞こえ、メスが飛ばされると同時に白い女の手も指がバラバラに切り裂かれたが、指はすぐにスライム状に溶けて本体のスライムに合流し、また保護色によって見分けが難しくなってしまった。 (悲鳴?! しかし、不死身なのか?! コイツは?!!)    グリンドーは警戒しつつもブルアンとともに素早くケルガの左手と両足のロープを切った。 『ドッ!!』  長い時間ロープで縛られ十字架に架けられていたためか、力尽きたケルガはグリンドーの腕の中に倒れこんできた。  グリンドーの元にパプラ船長とブラーウ船医が駆け寄り、ブラーウが彼の代わりにケルガを抱きかかえた。 「ドマーロに行ってくれ!先生!!」  グリンドーの言葉にブラーウはケルガを背負い渡り板まで駆ける───パプラがボーガンを構えつつ急ぎ彼の周囲を警戒する。
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