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「支倉さんって、おしゃれだと思ってるだろ。でもあれ、奥さんの作品だからな」  そう言われたのは庶務と経理の男性社員との飲み会でのことだった。  もともと女性社員たちと流行りのダイニングバーやらへ繰り出すのはあまり好きでもないし、そもそも誘ってももらえない。地味だからか、ファッションやトレンドに興味がないと思われているのかもしれないが、それなりに知ってはいるつもりだ。ただ、似合わないことがわかっているから手を出さないだけ。  それにああいう人たちと飲んでも、バッグやネイルの話か、あるいは結婚の条件とそれに合致する社内か合コンで出会った男性の話ばかりで、アフターファイブの大切な時間をそんなことに費やすのはもったいない。わたしにとっては退屈だ。かといってほかに何かやりたいことがあるってわけでもないんだけれど。  ところが、どうやらおじさん社員からは誘いやすい女子らしく、しょっちゅうお声がかかる。男ばっかりで飲みに行くのは味気ないけど、居酒屋へきれいなおねえさん社員を誘うのは気が引ける。向こうにしても対象外だろうし、つまらなそうな顔を眺めながら飲む酒が旨いわけはない。だったら藤崎でいいか、というあたりじゃないかと想像している。あいつならチェーンの居酒屋で充分だし、一応女だし、ってことだろう。それでもわたしはそのほうが楽しいし、退屈しない。いろんな話が聞けて面白い。  その時も、わたしが企画部へ異動になったお祝いという名目で、同じフロアにいたおじさん3人と小料理屋でテーブルを囲んでいた。 「ええ? 作品なんですかあ」 「そうだよ。奥さんアパレルでバリキャリ。長ーい年月をかけてあそこまで垢抜けさせたんだよ。新入社員の頃って、もうとんでもなくダッサかったんだから、あいつ」
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