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そう言ったのは課長と同年代の次期経理課長と目されている男性。「おんなじようなスーツなのに、どこか違うんだよなあ。さすがプロだよな。見事にビフォーアフターになっちゃってる。入社当時は俺のほうがずっとおしゃれだったんだぞ」
「ダサかった頃の課長に会ってみたかった」
「会っても気がつかなかったりして」
「そうそう。え? いましたっけ? って」
「ええ? そんなに影薄かったんですか」
「影薄いっていうか、まあ、目立つ存在じゃあなかったからな」
「それが同期で課長一番乗りだもんな」
話題が望ましくない方向へ行きそうで、少し舵を取ってみた。
「奥さん、美人なんですよね」
「うーん、美人っていうか……」
「え、お前、会ったことあんの?」
「ああ、休みの日に、街でふたりで歩いてるとこにぱったり。手つないじゃって、仲睦まじいのなんの。まあ、挨拶しただけだけど、感じのいい人だったな。美人っていうより、どちらかっていうとカッコいいって女性だな。背が高くって、こう、すらーっと、モデルさんみたいでさ。ああ、今はああいう人、ハンサムな女性っていうんだろ」
「へええ。じゃあ、やっぱりうちの美男美女カップルっていうと、林部長んとこか、関西支社へ行った。あ、元部長か。今は支社長」
「ああ、あそこは絵に描いたような美男美女だもんな。エリート部長と美人妻。男雛女雛、っていうには現代的すぎるか」
「どっちも派手な顔立ちだもんな。長身、彫りの深い顔、目元キリッ。あー、俺もあんな男に生まれたかったあ。きっと違う人生歩んでたんだろうなあ。そしたらあんな美女と結婚できてたかも」
「親を恨め」
「そういや、林部長と支倉って、大学の先輩後輩の関係だろ」
「おお、そうらしいな。歳はだいぶ離れてるけど」
どんどんいやな流れになりそうな気配だけれど、そのまま聞き役に徹することにした。あまり積極的に耳にしたい話ではないものの、こういうところで得られる情報が貴重なのは知っている。
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