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プロローグ
ーー西暦1010年。
時は、平安時代。
烏帽子に文官束帯を身につけた貴族の男が、寝殿造りの庭園で遣水のせせらぎを感じていた。
彼の小脇には、宮廷で一緒に暮らしている白猫が抱えられており、隣には一人の女性が立ち並ぶ。
桃色の小袿に身を纏ったその女性は、男と同じく貴族の出身でありーー男の正妻だ。
彼女は、今にも涙が溢れそうな瞳を揺らしながらも、真剣な眼差しで男を見つめる。
「そんな悲しい顔をするな」
女性とは裏腹に、男は穏やかな笑みを浮かべていた。
「病には勝てないからな。私はもうすぐこの世を去るが、君に会えてとても幸せな人生だった」
女性は涙を流し、猫は無垢に喉を鳴らす。
男は、やはり笑顔を絶やさないままーーこう続ける。
「しかし、確かにこのままお別れは少し寂しい。
願わくば……
生まれ変わっても、また君に会いたい」
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