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佐藤さんの憂鬱
先週、クラスの用事で一緒に出かけてから、渡辺くんがおかしい。理由はわかってる。突然、告白されて、わたしが変な返答しちゃったからだ。
そもそも、あれは告白なんかではなかったのに。あれは、それまで接点が無くて、打ち解けた間柄じゃなかったわたしを冗談で和ませようという、渡辺くんの気遣いだったのに。
わたしときたら、そんな状況を察する余裕も無く、焦って、狼狽えて、真面目に捉えて、「ごめんドさい」とか、声が裏返るわ、裏返ったショックで噛むわ…最悪な感じで即答してしまった。
しかも、わたし。なんで断るかな!
買い出し係を決めた日、居眠りしてた渡辺くんが満場一致で一人目に決定した後、わたしが渡辺くんを好きだと知っていたクラス委員の真由ちゃんが、上手に誘導してわたしを二人目にしてくれたのに。まあ、あれで、片思いがクラス中にバレたけど。
あ、また渡辺くんの方を見ちゃった。そして、なぜ、渡辺くんもこっち見てるの!?
なんだろう。やっぱり気を悪くしたのかな。それとも、わたし、また何かやらかしたかな。
はぁ。渡辺くん……。なんで買い出し係を決める大事な時間に、お気に入りの枕で爆睡しちゃったりするかな。そもそも、『首にしっくりきた枕がないと眠れない』とか言って、厳選された小型枕を常時携帯しているって……。神経質なの? 大胆なの? 自由過ぎ。好き。
わたしなんか、地味で十人並みで目立たなくて地味で地味で地味で……。だから、渡辺くんのその無意識で天然な目立ち体質に憧れる。たぶん、自分が目立ってるって全然気付いてないんだよね。好き。
あの日だって、わたしったら、ただの冗談にまともに答えて、しかも渡辺くんをフったみたいになっちゃったのに、渡辺くんは気を悪くしたりせずに、「そっかぁ。残念」って、ちゃんと乗ってシュンとしてくれて、「でも、佐藤さん噛みすぎ!」って、今度はちゃんと突っ込んで笑ってくれて…。その後もずっと楽しく過ごさせてくれた。好き。初めてまともに話せたけど、本当に良い人だったな。すっごい好き。
はぁ……。あ、ヤバ。また目が合った。なんでこっち見るんだろう。渡辺くんがこっち見てたら、わたしが渡辺くんを見れないじゃん!
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「あの二人、なんで付き合ってないんだろうね」
「取りあえず、教室の向こうとこっちの端っこから甘い視線投げ合うの止めてほしいよな。間に挟まれた奴らが可哀想」
「いや、大丈夫。みんな、生暖かく見守ってるから」
「そうだな。なんかあいつら見てると変なニヤニヤ出るよな」
「わかる」
教室の一番後ろで交わされるクラスメートのそんな会話と、クラス中のニヤニヤ笑いに気付くこともなく、今日も知らず知らずに注目を集めながら、佐藤さんと渡辺くんは甘い視線と切ない溜め息をダダ漏らすのであった。
【 完 】
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