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学校に昔から伝わるジンクスーー桜の樹の下には死体が埋まっている。その死体を見た人は一つ願いが叶うらしい。
随分と物騒なジンクスである。
うら若き乙女集うこの女子校に、一体全体なぜこんなジンクスが生まれてしまったのかは置いといてそんな程度(死体を掘り起こして、見る)で願いが叶うのなら儲けものだ。
そして、私には願いがある。
というわけで、卒業式後の私は熱心に樹の根元をスコップで掘り続けていた。
こう見えて(どう見えて?)行動力だけは有り余っている。
なんせ、このためだけにわざわざ受験も日程のはやいものにしたのだ。死体を見つけずにはこの三年間を終えることは出来ない。
なぜ、こんなぎりぎりに掘っているのか?そんなナンセンスなことは言わないでもらいたい。桜と言えば卒業、そうだろう?
既に日は暮れ、校舎のあかりもちらほらと消えていく。春先といえど、まだ日照時間が短い。あかりの少ない木のあたりはかなり暗くなっていた。
暗くなってきたが明日に持ち越すのかって?そんなわけはないだろう。
問題ない、モウマンタイ。
こんなこともあろうかと、登山用品のヘッドライトは昨日Amaz〇で購入済みだ。文明に感謝。ついでにいうと、もう頭に装着している。私はヘッドランプのスイッチを入れた。
それにしても長い間(卒業式後ずっと)掘り続けているのに、私のスコップは死体を引き当てない。
どんだけ堀ったと思ってるんだ。低倍率どころか確率の闇のような話である。
自分のスマホのガチャに思いを馳せた。
それともやはりこんなジンクスは嘘っぱちなのだろうか。
そんなことを考えたちょうどその時(都合のいい展開だが)、私は死体を引き当てたのだった。とうとう成し遂げたのである。もっとも、最初死体だと思わなかったのだが。
(何だこれ)
掘る先にかすかに青いものがある。
ビニールシートの切れとかなーと思い少し掘ると、なんだかよく分からないがビニールシートっぽいものにはチャックが付いているようだ。どっかで見たような?
もう少し掘る。
寝袋。
ビニールシートっぽいものは寝袋だった。中に何か入っているような手触り。そこにチャックがあるなら開けるのが全人類にとって共通した責務である。中身が気になるのだ。
というわけで、私はチャックを開けた。土にうずもれていたわりにはチャックは錆びていないようでスルスルと動く。
案外土の中は物の保管に素晴らしいのかもしれない。
それは置いといて、と。
寝袋(?)の中にあったのは少女の頭だった、いや首から下も繋がっている。寝袋の少女は整った顔立ちをしているが、血色がなく青ざめていてまるで生きていない。首元ではかると脈がないから実際生きていないようだ。・・・・・・死体。
そう、その少女こそがジンクスの死体だったのである、多分。
(うへぇ)
ジンクスの体験談を聞くにあるとは思っていたけど、死体は見るのに適したものでは無い。
というか、普通に考えて校庭に死体なんて意味不明でしかない(もちろん校内で殺人事件が起こったとかそういうこともないはずだ)。
さっさと埋めてしまおう。きっと、ジンクス通りなら見ただけで効果あるはずだし。
チャックを閉じようとした私の目に入ったのは死体の首に下げられたネームカードだった。
(なんか書いてある)
どれどれ。
『こちらのカードをお読みの方へ
いきなりで驚かれると思いますが、最後までお読みください。
これは、死体です。
特に事件性は無いものなので、通報等は結構です。
御用ございましたら、死体全体を掘り出し、チャックをきちんと開封し、おでこに一度デコピンをしてください』
(いや、御用しかねぇよ)
誰が何のために書いたとか埋めたとか、まず誰だとか。あと見ただけでオッケーなのか。死体にデコピンを食らわせて何が起こるかは分からないが、とりあえず掘ることにする。
これを埋めた人は大変だっただろう。もくもくと掘り進めると何とか引っ張り出せそうなくらいにまでなった。
(せいっ!!)
引っ張り出した時点でもう身体は限界を迎えた。背中に湿布を貼っておく。
これでデコピンして何も起きなかったら損である、大損である。
何としてでも願いを叶えてもらえなければ。そうでなければこの死体に二度目の死を迎えてもらおう。
チャックを開ける。
足先まで出てきた死体は我が学校の制服を着て、ローファーを履いている。
(もしかして、女子高生?)
どうでも良いことだけれども。
ええと、デコピンすればよいのだっけ。起きなかったら嫌だからね、と言い訳をしてペシッと強めにデコピンした。
と、死体の目がカッと開いた。
目がぱちぱちと二三度瞬いた後、死体は口を開いた。キョロキョロと辺りを見て、私が起こしたのだと分かったらしい。
「あー、え〜と。ども」
あれ?声低い。
そんな私の思いをよそに、死体は自己紹介を始めた。
「僕は噂の幽霊、もとい死体。あんたの名前は?」
は?男かよ。女子校だぞ?ここ。
こんなので果たして、願いは叶うのだろう、か?
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