ブラウニーの冷めない午後

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彼女との出会いは高2のときだった。 始業式からひと月ほど経ってもなかなかクラスに馴染めず、教室の隅でファッション誌をめくっていたわたしに、近づいてきた人影があった。 「なに読んでんのー?」 紙パックの苺ミルクをずるずるすすりながら、制服を着崩した長身の少女は言った。それが殿村仁奈だった。 「え、あ……」 「わー、これかわいい! ほしーい」 突然話しかけられて戸惑うわたしに構わず、彼女は前の座席にどかっと座り、雑誌の中のピンクのパーカーを指差してはしゃいだ声を上げた。 「これ、この間PARCOで売ってるのみたよ」 「まじで!?」 「うん。まだあるかわからないけど」 校内でも有名な美人で、それゆえに孤高の存在だった彼女に話しかけられているという緊張感を覚えつつも、なぜあんなにするすると自然に会話ができたのだろう。自分でもわからない。 ともあれなんとなく意気投合したわたしたちは、その週末には一緒にPARCOへ買い物に出かけ、おそろいのパーカーをゲットしていた。 その翌週も、その翌週も、わたしたちは一緒に遊んだ。 お互いお金のない高校生だったので、東京へ買い物やカフェめぐりに繰りだした翌週は、節約のため公園で手作りお菓子を交換した。学校でも共に過ごしているのに、飽きたりずに夜中まで電話で喋り倒した。 波長が合ったとしか言いようがない。 その美貌のわりに気取りのない仁奈ちゃんにわたしは惹かれたし、仁奈ちゃんはわたしのファッションや読書のセンスを「師匠」と呼んで崇めた。 彼女との心地よい関係が、わたしに多幸感をもたらした。
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