思い出

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思い出

姉が目の前で落ちていった。 それは、全国的に有名な花火大会の日のことだった。 一番大きな花火が打ち上がる音が遠くで聞こえた。 その音を背景に飛び降りた。 一瞬見えた姉の表情はキレイだった。 その日は朝から姉の様子がおかしく花火大会に誘われているのも断ろうとした。 このまま一人にさせてはいけない気がしたからだ。 そしてその日は父と母は旅行に行き、いなかったのもあるからだ。 でも、姉は私は大丈夫だと告げ送り出してくれた。 花火大会の会場では屋台が並びお祭り特有の雰囲気だった。 何個か品物を買い友の所に向かおうとした時何発か花火が上がる音がしていた。 花火大会が始まり人混みがより混雑した。 やっとのことで人混みを抜け友に会え、食べながら花火を見た。 メッセージ花火が始まり、スマホを持っていないことに気づいた。 共に忘れ物をしたと告げ取りに帰った。 ドアが開いていた。 出るときは閉めてあったのに。 もしかして姉に何かあったのではないかと僕は急いで玄関からリビングに走った。 そこには柵を乗り越えている姉の姿があった。 鍵を開けベランダに駆け出したが、もう下に落ちていた。 あったのは夏特有の生温い風だった。 姉を救えなかった事を後悔している。 あのとき家にいれば。 もっと気にかければ。 今も花火の音が聞こえると網膜に焼きつけられたあの風景を思い出す。 叩きつけられて痛くなかっただろうか。 姉は寂しがり屋だった。 一人でいて寂しくないだろうか。 彷徨ってないだろうか。 僕はあることを考えた。 天にヒトを御供物することだ。 そうすることで死んだ時の姉の痛み、苦しみが解放され天へと導かれる。 だから、毎年その花火大会があった日には天に御供物をしている。 今年もまた探さなければならない。 姉と同い年で姉に似合う浴衣を着せ、一番大きな花火が打ち上がるのと同時にやる。 姉の為だ。 だから、これは正しき事なのだから。 誰一人止めることは許されない神聖な供養だ。 これがおかしい訳がない。        <完>
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