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理玖に手を引かれるまま、夜の街を歩いている。 「どこへ向かってるんだ?」 背中に呼びかけると、理玖は立ち止まって振り返った。 「どこだと思いますか?」 「…わかんない」 「嘘ですね。わかんないふりして連れてかれて、そうすれば罪悪感を感じずにすみますか?」 「違…」 「旭さんが選んでいいですよ」 理玖の背後では街のネオンがギラギラと光っている。 「このまま俺についてくるか、まっすぐ家に帰るのか」 「なんだよ、それ…」 何も答えられず立ち尽くしていると、理玖は背を向けた。 「さようなら、旭さん」 「…ま、待って!」 去っていこうとする理玖の手を、思わず握っていた。 「理玖、俺……」 振り返った理玖の目の端に涙が浮かんでいるように見えて、たまらず抱き寄せた。 「俺も、別れてからずっと理玖のことが忘れられなかった。好きだよ、理玖」 「旭さん…」 懐かしい、理玖の体温を感じる。この瞬間が、永遠に続けばいいのに。 「…でも、ごめん。愛している人がいないっていうのは、嘘だった」 腕の中の理玖が俺を見上げた。 「…どういうことですか?奥さんのこと、愛してるとでも言うんですか?ゲイのくせに」 「違う。俺は…娘が大事なんだ。だから、理玖のところへは行けない」 「なにそれ」 理玖の瞳がさっと暗くなり、俺の胸を突き飛ばした。 「この期に及んでいい人ぶるんですね」 「そんなつもりじゃ」 「不倫がバレて兎ちゃんと離れ離れになるのが嫌なんですよね。はいはいわかりました」 「………」 「…旭さんのそういう中途半端な正義感も好きですよ」 理玖はそう言い残し、夜の街の中へと消えていった。 …これでよかったんだ。いくら流されたからって、不倫はするべきじゃない。 だけどふと考えてしまう。 もし娘ができていなかったら、俺は朝日と結婚することもなくて、久しぶりに再会した理玖と、普通によりを戻すこともできたんじゃないか…と。 …矛盾している。理玖より娘のが大事なはずなのに。
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