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旭と朝日
家に帰ると、朝日と兎はぐっすり寝ていた。起こさないように慎重に布団に入り、ため息をついた。
明日、朝日の機嫌をとらなくちゃいけない。せめてプレゼントでも用意してあればよかったけど、すっかり忘れていた。
翌朝。
予想に反し、朝日は上機嫌だった。
「おはよう宏太〜」
食卓にはトーストとサラダとハムエッグと牛乳とヨーグルトが用意されている。いつもは菓子パンがぽつんと置かれているだけなのに。
そもそも、俺が起きる時間に朝日が起きていることが珍しい。
「おはよう。今日は豪華だね」
「え、何が?それより宏太元気ないね?」
「あ、うん。なんか体調悪くて」
飲み過ぎたせいなのか、頭がガンガンと痛い。熱もあるような気がする。
「ふーん。大変だね!」
「あのさ、昨日の誕生日…」
「ああ。気にしないで!わたし全然怒ってないから」
朝日はにこにこと笑っている。逆に不気味だ。普通の人でも怒るようなことをしたのに、短気な朝日がこんなに寛容だなんて。
「えっと…今日は早く帰るから」
「何時頃?」
「え?正確にはわかんないけど…」
「何時以降に帰ってくるの?」
「………何か用事でもあるの?早く帰ってくると、まずい?」
「なにそれ?何か疑われてるみたいで気分悪いんだけど」
朝日は一気に不機嫌になってしまった。
「疑ってるわけじゃ」
「あーもう最悪。毎日育児で超疲れてるわたしを労りもせず、誕生日に帰ってこなくて、挙げ句の果てには疑ってくるなんて。意味わかんない。せっかく朝ご飯作ってあげたのに」
「昨日はごめんって。生徒のことでちょっとトラブルがあったから」
「ふーん。先生って忙しいんだね!ガキに勉強教えてるだけなのに」
「朝ご飯、ありがとう」
このままケンカになったら面倒だと思い、ハムエッグを一口で頬張り…吹き出した。
「ぶはっ!な、なにこの…」
「ちょっと何吐いてるのよ。汚いから自分で掃除してよ?」
「そ、それはいいけど…これどうやって作ったんだよ。なんか変な味が…」
「あたしの朝ご飯に文句があるの?」
「噛むとガリガリするし、妙にすっぱい味がするし…」
「ガリガリするのは卵の殻じゃない?すっぱいのは消費期限だいぶ過ぎてるからかも」
「はあ?!」
慌てて口の中のものを全部吐き出した。お腹に入ってしまった分が心配だ。
「大げさね。死にはしないでしょ。ちゃんと掃除して、食器も洗っといてよね。あとゴミもまとめて出して、洗濯機も回して干しといて」
「おい、俺今から仕事に行くんだぞ?そんなに色々家事やる時間なんて…」
「家事は女の仕事ってこと?信じらんない。育児でヘトヘトのあたしに向かってそんなこと言うんだ。宏太は兎ちゃんより他人のガキの面倒見る方が大事だもんね」
「そんなこと言ってないだろ?…わかったよ。食器洗いとゴミ捨てと洗濯、やっとくから」
「じゃ、あたしは兎ちゃんと二度寝してくるね〜」
朝日が部屋を出て行くと同時に、大きなため息が出た。
…疲れたな。
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