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エス
1人の女を忘れられないのが、ただの固執だとか、若さ故の幼い独占欲に塗れたせいだとか、色々自分なりに考えたが、結局答えは出なかった。
他に俺に一緒に過ごす女がいなかった環境もあったかもしれない。
だが、ただそればかりなわけでもないと思ってしまうのだ。
そもそも、高校時代一途に惚れていた女はどうだった?
彼氏が出来て、その時俺に女のアテはなかったけど、それでも素直に、潔く身を引いていた。
今はどうだ?
彼氏が出来たと言うのに、いつまでも固執し、頭から離れない。
以前と特に違うのは、自ら離れようとしても、その離れている間に頭がおかしくなりそうなほど考えてしまうことだ。
連絡をやめよう。考えるのをやめよう。そう思いはするものの、結局全て未遂に終わっていた。
いつの間にか忘れられていた、あの頃とは大きく異なる。
それ故に彼は思うのだ。
これだけ想ってしまうのには、きっと何かの理由がある。これですぐに終わるような関係であるように思えないんだ。と。
同時に、己の幼さを隠すためのカッコつけた言い回し、自己解釈のようにも思えてしまった。
だが、少なからず、彼はあの頃より大人になっている。
だと言うのに、こうなっている現状を、幼さと丸め込むには少し抵抗があるのも分かった。
今日も彼は病む。
いつも夜から明け方にかけて上がる、彼女の惚気の投稿。
毎度歯軋りをしつつも、何故かその投稿を見るのをやめられなかった。
自分が馬鹿丸出しで、自尊心もクソも無くなっていたことに気付いたのは、友達にその愚痴を垂らしている時だった。
結局は他人。
他人からどう思われようが、きっと彼女は、自分たちが幸せならそれで良いのである。
彼氏を客観的に見れば、いかに男として低俗で、欲に塗れた猿まがいな人間だとしても、それを受け入れ、愛する彼女には関係のない話なのだ。
しかし病み、寝付けなくなっても、どうもどこから来るのかわからない胸の騒ぎ様は、とても形容し難かった。
確実に言えるのは…。
全てにおいて理想だったのだ、彼女は。
清楚系で、人当たりがよく、優しく、ふざけあえる関係。
なにより、彼の趣味に理解があった。
いつか友達と語った、結婚するならこんな女と言うそれを、具現化したようなものだった。
故にこうなっているのかもしれない。
彼女以上に、彼のそれに当てはまる人を、彼はまだ知らなかったのだ。
考えているうちに気付く。
今までの惚れた女は、どこかしら、我慢していた。
趣味を捨てなければならない時もあった。
己が変わらなければならない時もあった。
でも彼女はどうだ?
根本は、何も変わらないままで、全てを受け入れてくれた。
そんな生活が、ずっと続くのなら…。
そう考えてしまったが最後。
いつの間にか、もう戻れなくなっていた。
彼女は…可愛らしく、グロテスクなほどサディストだった。
いきなりそれを言うとドマゾなのかと思われるだろうが、いわゆるおふざけが出来る相手だった。
根本は俺はノーマルのはずだが、彼女が俺をいじる時の仕草とか、表情とか…その全てが愛らしかったのだ。
それをいつまでも見られるのなら…彼女の前では、俺はドマゾで良い。
さらに時たま見せる優しさが、余計に俺の心をおかしくさせた。
本気で悩んでいるときには、相談してくれた。
だからこそ、俺にとってかけがえのない存在だったと言える。
そんなありふれた言葉で表したくないが、そう言う他無いくらい、大切だったのは決して揺るがない。
その彼女は…今どうしているだろう…。
大学を卒業して1年。
2つ上の代が幹事となり、3学年の同窓会が開かれることとなった。
部活動においては、最も関わった代である。
全員と会うのが楽しみでしかなかったものの、どこかで彼女に会えると言う性欲は働いていた。
でも不思議なものである。
会うのも何故か辛く、しかし、会いたいという欲はあり…。
これもまた、形容し難い感情であった。
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