11話:7月23日(土)①

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11話:7月23日(土)①

「いってきます」 「いってらっしゃい。気を付けてね」  僕は早朝、リュックを背負って玄関にいた。父さんの実家に行くためだ。目的は父さんの過去を探るためだ。もちろん、このことは父さんに秘密だ。父さんはまだ起きていない。 「母さん、このことは父さんには……」 「何度も言わなくてもわかってるわよ。父さんには友達と出かけてるって言っておくわよ」 「お願いね。じゃあ、行くよ」 「よろしくって言っておいてね。あと、手土産を途中で買っていくのよ」 「わかったよ」  電車とバスを乗り継いで3時間と少し。やっと父さんの実家の近くに着いた……はずだ。周りは田んぼと森しかない。青々とした緑色が一面に広がっている。高い建物が無く、直射日光が当たるから買ったお土産が駄目になるんじゃないかと思うくらいの暑さだ。  そこからスマホのマップとにらめっこしながら歩いて30分と少し。父さんの実家と思わしき家に辿り着いた。幼い頃の記憶と同じ気もする。  僕は恐る恐るインターホンを押す。ピンポーンと鳴った気がしない。故障してるのだろうか。数分待っても誰も出てこない。留守かもしれない。 「ご、ごめんください!」  少しの勇気を出して声を張る。すると中から「はいはーい」と声が聞こえた。なんか田舎っぽい。 「どちら様ですか」  そう言って、引き戸が開いた。幼い頃の記憶と多少変わってはいるが、おばあちゃんが出てきた。 「あれま!? まーちゃんかい? 本当にまーちゃんかい?」 「はい。お久しぶりです」 「どうしたの急に来て! まあ、とにかく上がりなさいな。暑かったでしょう。教えといてくれたら駅まで迎えに行ったのに! 一人で来たのかい? おじいさん! おじいさん!  まーちゃんよ! まーちゃんが来たわよ!!」  それから僕は手厚い歓迎を受けた。
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