23人が本棚に入れています
本棚に追加
13話:7月23日(土)③
僕はゆっくりと後ろを振り向いた。そこには父さんが立っていた。
「どこに行ってた?」
父さんはゆっくりと近づいてくる。暗くて表情が読めない。
「どこって……友達と遊んでたんだよ」
「本当のことを言いなさい、どこ行ってたんだ!」
「だから……」
「どこに行ってたんだ!!!!」
父さんがどんどん近づいてくる。父さんが手を伸ばせば触れられるくらいの距離まで詰め寄られた瞬間、僕はポケットからアレを出した。昨日、咲との帰り道に寄ったホームセンターで買った護身用スタンガンだ。父さんが僕に向かって伸ばしてきた腕めがけてスタンガンを振りかざす。
バチッツという音が響いた。しかし、スタンガンは空振りに終わった。父さんはスタンガンを寸前でかわし、スタンガンをはじいた。はじかれたスタンガンは無情にも地面に落ちる。父さんは流れるような動きで僕の足を払い、僕を押し倒し、馬乗りになり、襟を掴む。さすが警察官だ。
「さっきのは何だ?スタンガンか?」
「……そうだよ」
「何のためにだ?」
僕はさっきの考えを改めた。やはり父さんは怪しい。もしかしたらここで殺されるかもしれない。怖い。しかし、僕は覚悟を決めた。
「殺人鬼と闘うためだよ」
「そうか……そうだろうな」
父さんは一拍置いて再び聞いてきた。
「で、どこに行ってたんだ?」
「……父さんの……実家だよ」
「そうか」
すると、父さんは襟を放した。父さんは少し笑ってたような気がした。
「あのな、正志……」
父さんは僕に何かを言おうとしてたのだが、それはある一言に遮られてしまった。
「2人とも、何をしているの?」
2人して、声の方を見る。そこには、夜勤から帰ってきたであろう母さんの姿があった。
「い、いや……、散歩中に偶然正志と会ってな。正志が急にこけたから手を貸していたところだ」
「ふ~ん。そう。じゃあ、帰るわよ」
母さんはそう言って歩き出した。
助かった……。母さんが声かけてくれなかったら殺されてたのかもしれない。
「お、おう」
父さんは返事をして立ち上がろうとした。立ち上がる瞬間、父さんは僕のポケットに紙きれをねじ込んできた。そして、僕の耳元で囁く。
「真実が知りたいのならば、母さんがいない時に見ろ。決して母さんには悟られるな」
父さんはそう言って、歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!