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15話:7月24日(日)②
僕は家の中に招かれた。自分でも不用心だと思った。けど、なぜか断れなかった。万が一、襲われても歳の差で反撃することも逃げることもできると思ったというのもある。しかし、一番の理由はここには真実があると直観したからだ。
お爺さんは「加代子! 加代子!!」と叫ぶお婆さんを落ち着かせて、奥の襖の部屋に敷いてある布団に寝かしつけた。
「すみませんね、驚かして」
「いえ……、大丈夫です」
「あ、まだお茶を出していませんでしたね。すみません」
「いえいえそんな、おかまいなく」
少し話しただけでお爺さんがとても礼儀正しく、気弱な性格であることは感じ取れた。まあ、一応警戒は解かないが……。
そんなことよりも聞いておきたい、聞いておかなければならないことがある。
「あ、あの! 何でお婆さんは母さ……母の名前加代子を叫んだんですか? どこで知ったんですか?」
お爺さんはお茶を置く手を止めた。
「……ということは、君は加代子の息子の正志くんかい?」
「はい、本間正志と言います」
「そうか、やっぱり……」
お爺さんは少し黙っていた。複雑な表情をしているようにも見えた。嬉しいような、悲しいような、寂しいような。
それにしても、このお爺さんはなぜ僕の名前を知っていたのだろう。
「すまないね。さっきの質問に答えよう。それはね……、君が加代子に似ていたからだよ」
「それは……どういう……」
確かに母さん似だとよく言われるけど……。
「はっきり言おう。私たちは加代子、つまり君のお母さんの親なんだ」
「えっ!?」
おかしい。母さんは、両親は事故で亡くなったって言っていた。父さんもそう言っていた。だから、母さんの実家に行こうなんて話は一度も出なかった。
けど、父さんは母さんの両親の存在、住所まで知っていて、僕に紙に書いて渡してきた。ということは、母さんも父さんも僕に嘘をついていたってことか……?
「えっと……、正直突然のことでまだ信じられないんですけど……。母さんは、両親は事故で亡くなったって……」
「そうか……、そういうことにされているのか……。まあ、仕方ないことか。」
お爺さんは少し寂し気な表情を見せた。
「ここに来たということは、君、いや正志くんは何か知りたいことがあるんじゃないかい?」
「……はい」
「多分、正志くんの知りたいことの一部は話せると思うよ」
お爺さんはそう言って少し背筋を伸ばした。
「少し、昔の話をしよう」
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