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2話:7月20日(水)
僕はいつもより早足で家に帰り、いつもより早めにリビングの食卓についた。理由は19時から放送される『未解決事件簿』を見るためだ。事件や犯罪者というものになんとなく興味がある僕にとっては見逃せないテレビだった。
19時になり、番組が始まる。司会者がゲストたちと何かしらのトークをしていた。僕としてはそんなのはいいから、早く事件の内容に進んでほしかった。
「正志、箸が止まってるわよ」
母さん、本間加代子がニコニコしながら注意してきた。僕の母さんは怒っている時でさえニコニコと笑っている。母さんがニコニコ顔を崩したところを見たことがない。
母さんは今看護師として働いている。夜勤とかもあるので家にいないことが多いのだが、昨日が夜勤だったので、今日はこの時間でも家にいるのだ。
「うん」
生返事をした時、ピンポーンとチャイムが鳴った。時間的に父さん、本間武が帰ってきたのだろう。
「はーい」
母さんが玄関まで出迎えに行った。僕はそこから動く気はさらさらなく、テレビを食い入るように見ていた。テレビではやっと事件内容に入るらしい。
「ただいま」
「あ~、おかえり」
僕は父さんの方を見もしないで返事だけをした。できるだけ静かにしてほしい。今から本題に入るのだ。
『最初の事件はこちら!「連続幼児・児童毒殺事件」!!』
連続幼児毒殺事件か……。聞いたことはあるけど、詳しい内容は知らないな。
テレビは事件の概要について説明し始めた。その時だ。
「消せ」
声の方を向くと、僕のすぐ後ろに父さんが立っていた。光の反射で父さんの眼鏡の向こう側の目が見えない。父さんの表情が乏しいことも相まって何を考えているのか分からない。
「消せ」
もう一度同じ言葉を口にした。今までもこういう実際にあった事件についての番組を父さんの前で見てきた。父さんは嫌な顔をするものの、無理やりテレビを消したり、チャンネルを変えたりはしてこなかった。のに。
「聞こえなかったのか。消せと言ってるんだ」
「い、嫌だよ」
僕がこの番組をどれだけ楽しみにしてきたか。
「消せ!!!!!!!!!!」
父さんの滅多に聞かない怒鳴り声を聞いて、もろにビクッと驚いてしまった。
「はいはい、わかったわよ。正志、いいわね? チャンネル回すわよ」
母さんはニコニコしながらリモコンを手にする。こんな怒鳴り声を聞いた直後でもいつもと変わらないニコニコ顔を維持していて単純にすごいと思った。看護師の仕事で培ったものだろうか。
テレビは毎週やってるトーク番組になってしまった。
「じゃあ、先に風呂に入ってくる」
短くそう言って父さんは脱衣所に姿を消した。
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