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4話:7月21日(木)③
「昨日塾の帰りに向こうの公園で捨て猫見つけちゃって。うちでは飼えないけどお世話しないと。昔みたいに虐められないように」
咲の話を聞いてそんなこともあったなと思い出す。昔、公園にいた猫が誰かに虐め殺された事件があったことを。そのとき咲はずっと泣いてたっけ。
「そっか、わかった。あんまり遅くならないように気をつけろよ。殺人犯に殺されるかもしれないぞ」
「あんまり、怖がらせないでよ……」
なんか変な空気になってしまった。いつもの咲なら「返り討ちにしてくれるわ!」とか「正志だって女の子みたいに可愛くて非力なんだから気を付けなよ!」くらい言ってもいいくらいなのに。
なんか今日の咲はちょっとおかしい……気がする。
「じゃあね! また明日!」
僕は逃げるようにその場を後にした。いや、しようと思った。
「あ、あのさ!!」
咲が急に大きな声を出すからビクッとなってしまった。
「な、何? どうしたの?」
「えっと……。来週の月曜日は終業式だよね」
「…? う、うん。そうだね」
「そしたら夏休みだよね……」
「そ、そうだね」
どうやら、今日の咲は本当におかしいみたいだ。いつものハキハキとした話し方からは想像ができない。もしかして体調が悪いのだろうか。熱中症か? 顔色は……。駄目だ、咲が下を向いてるから分からない。
「大丈夫? 今日はすぐに帰った方がいいんじゃない?」
「……」
どうしよう。本当にどうすればいいのかわからない。
「あのさ!!」
大きな音というものは何度聞いても驚いてしまう。この驚いた時にビクッとなってしまう癖をどうにかして治したいものだ。
「26日さ、火曜日! お祭りあるじゃん! 花火大会!!」
「う、うん。あるね」
花火大会は毎年7月の下旬に近所の土手で開催されている。土手に様々な屋台が出て、人も沢山集まってとても賑やかになる。まあ、僕はそういうのに興味がないので行ったことはないんだけど……。
「一緒に行くから予定空けといていよ! 絶対だからね!!」
咲はそう言って走り去ってしまった。
咲の顔が赤かったのは熱があったのか、夕日のせいなのか、どうしてなのか僕には分からなかった。
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