6話:7月21日(木)⑤

1/1

23人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

6話:7月21日(木)⑤

「正志! もうそろそろシャワー浴びちゃいなさい!」 相も変わらずビクッと僕の体は反応した。なんでこういうタイミングで大きな声を出すのだろうか。  「はーい」と返事をして脱衣所に移動する。キッチンでは母さんが晩御飯の用意をしていた。おそらく今晩のメニューは肉じゃがだろう。 「どうしたの正志? なんか顔色が悪いわよ」 「いや……ちょっとね……」 「無理しちゃだめよ」 「うん、ありがとう」  この時、僕は思った。母さんに当時の事件について訊けばいいのではないかと。中には近所で起こった事件もある。当時幼児・児童だった僕を育てていた母さんならば、事件について色々知っていることがあるかもしれない。あと、当時の父さんの様子も知ることができるだろう。 「ねえ、母さん」 「何?」 「昔起きたらしい事件なんだけどさ、「連続幼児・児童毒殺事件」のことって覚えてる?大阪に住んでる時に近所で起こったこともある事件なんだけど」 「もちろん覚えてるわよ~。あの事件ね、本当に怖かったわ~」  怖かったって言ってるわりには、表情はいつもと変わらないニコニコ顔だ。本当に怖かったのかと疑ってしまう。 「あのさ……何かなかった?」 「何かって、例えば?」 「例えば……、父さんの様子が……おかしかった……とか」 「そうね~」  母さんは料理する手を止めて考えてくれている。 「強いて言えば……」  母さんの次の言葉を待っているとインターホンが鳴り、「ただいま」という声が聞こえてきた。父さんが帰ってきてしまったのだ。 「あらやだ、もうそんな時間?」 「僕、お風呂に入っちゃうよ」  僕は逃げるように脱衣所に向かった。服を脱ぐ前に母さんを呼び止めた。 「母さん、今の話は父さんには秘密にしといて。また昨日みたいに怒られたくないから」 「分かったわ」  そう言ってニコニコしながら父さんを出迎えに行った。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加