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9話:7月22日(金)②
「ねえ母さん」
「ん?」
「父さんが子供の頃、どんな子だったか聞いたことある?」
有名な凶悪殺人鬼たちの中には子供の頃から殺人鬼の兆候が見られる者もいるということを聞いたことがある。もしくは、壮絶な家庭環境で、その環境がその人に大きな影響を与えるという話もよく聞く。
「父さんの子供の頃の話ね~。聞いたことないわね。だってあの人は自分のことをペラペラしゃべるタイプじゃないし……」
「そっか……」
この返事は予想していた。僕自身も聞いたことがない。父さんは父さんの親、つまり僕から見ての祖父母とは仲が悪いらしくて、実家にも今までで1回しか行ったことがないから知る機会もなかった。
怪しいな……。まるで、自らの過去を、子供の頃のことを隠しているみたいだ。
「母さん……、実家ってどこだっけ?」
父さんの実家に行けば何か手掛かりが得られるかもしれない。
「実家って……母さんの?」
「ごめん、違うよ。父さんの方。母さんの親は事故でいないんでしょ」
「そうなのよ~。だから、びっくりしちゃって。父さんの実家は茨城県の……」
茨城県か……。1日あれば往復できるな。
「急にどうしたの?」
「い、いや~夏休みの宿題で親の子供の頃について調べましょうっていうのがあって」
「そうなの。いつくらいに行くつもりなの。久しぶりにみんなでご挨拶に行きましょうか」
「いや、話聞くだけだからいいよ、1人で。父さんも不機嫌になるだろうし。あと、早めに終わらせたいから明日くらいに行きたいって思ってる」
「明日!? それはいくら何でも急すぎない? まだ夏休みだって始まってないわよ!?向こうも困るでしょう」
「大丈夫だよ。もう電話してあるから」
これは嘘だ。電話番号なんか知らない。住所だって今初めて知ったんだから。
「そうなの? じゃあ、まあ、いいかしら」
「よし、明日行ってくるよ。あと、このことも父さんには……」
「秘密にして、かしら?」
「うん、宿題とはいえ隠してる過去を探られると嫌だと思うし」
「別に隠してるわけではないと思うけど……」
「じゃあ、僕学校行くね」
「え!? もう!? 早すぎない? 朝ごはんはどうするのよ」
「せっかく朝早く起きれたから学校で勉強しようかなって。朝ご飯はコンビニで買っていくよ」
「あら、そう?」
「うん。じゃあ、着替えてくる」
僕はすぐに着がえて、すぐに家を出た。父さんが起きてくる前に。父さんと一緒の同じ食卓を囲むなんて今はとてもできない。
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