ピエレット綺談

第十一夜・苛烈キネマ『新説パノラマビュー』

　メチャロッパの山脈をブブブンと愛車のマラシイで過ぎ去ったのさ。あすこの景色はまっことに絶景だった。チミたちにも見せてあげたいところだ。ざんねんながら、メチャロッパの頂上でラメカで撮影したデータが消えちまってなぁ。いやぁ、あれは不運だった。まさかあの時モッチョネの姉貴がブチギレるなんて誰も思わない。ああ、チミはモッチョネの姉貴を知らないか。姉貴はすごいひとだ。まず、脳天から電流が走るような顔をしていて、見ているだけで、五臓六腑がじんじん痛みだす。イヤイヤ、あんなにビューチフルなかたはいないさ。
　で、なんだったけ？　ああ、メチャロッパ山脈だった。噂通りににまっこと絶景で。って、これはさっき同じことを言ったような気がするな。天使のような笑顔で「くたばれ！」なんて言われた時は、期待外れだと思った。ああ、誰もいなくなるくらいになぁ。
　チミはビョンビョンのアレを食べたことあるかい？　どうもオレは苦手でなぁ。ビョンビョンの中のポヨヨがまずく感じてしまうんだ。でも、あれが今流行ってるんだって？　何時間も並んで買うって聞いたよ。バエバエの写真が撮れるって聞いたんだが、ラメカが壊れたオレにゃあ関係ないはなしだったなぁ。
　しばらくそんな話を続けていたら、オレは見たんだよ。ありゃあ、ヒトだったな。絶滅したはずのヒトを見た。
「おい、そこのヒト！　ヒトだろ！　止まりなよ！」
　オレの声を理解してないのかヒトは止まらない。めちゃくちゃなスピードで走っていくんだ。これにはオレのご自慢の蒼き翼を広げるしかなくなったさ。チミも見ていたろ？　ほら、あの時のアレ。
「おいおい、待ちなよ！　そこのヒト！」
「来るな化け物！」
　今思えば、やっぱりアレは言葉が通じてなかったんだろうなぁ。だって、鳴きながら走ってたんだ。ヒトってあんなに可愛い声で鳴くんだなぁ。オレはもう庇護欲っていうの？　そういうのが掻きたてられちゃって、絶滅してたと思ったのが生きてんだから、そりゃあもう、捕まえて保護してやろうと思ったワケですよ。チミもそう思わない？　絶滅したはずのものが目の前に現れたら捕獲一択でしょうよ？
　信じられないくらいに抵抗するもんだから、うっかりブルンブルをボヨボヨンしちゃって、可愛い声で鳴いて甘えてくれてたんだ。
「離せ！　やめろ！　やめてくれ！」
　ヒトって可愛いんだなぁ。頭に吸い付いたら愛おしさが増したね。チミ達も、オレの飼ってるヒトに会いたくなっちゃった？　とっても可愛いやつだったんだけど、昨日さ、鳴かなくなったんだよね。ビョーキになったのかなぁ。ヒト専門のオイシャなんて今じゃあんまり見かけないから、トッネで調べたんだよね。そしたら、中身を吸ったら、ヒトって死んじゃうんだって。ソウイウコト。
　あーあ、絶滅したはずのヒトを吸っちゃったぁ。愛情表現って難しい。これなら、ポロンガの海辺でフォッガの群れとソスァナしてるほうが簡単だと思ったよ。仕方ないから、ヒトの死骸は研究所に寄贈しといた。
　チミ達も、ヒトを見つけたら吸わずにそっとしておこうな。オレのように愛情表現したら、ヒトは死ぬんだ。良かれと思ってしたのになぁ。「あ、あああ、ああああ」なんて甲高い声出してるから、てっきり夢見心地なんだと思ってたのに、ザンネンなことした。
　これからゴンゴン鉱山をひとっ走りしてこようと思うんだけど、チミ達も一緒にどう？
ヒトの保護区だし、ヒトの里親探しもやってるらしい。新しい子を飼おうと思ってるんだ。野良のヒトよりも繁殖で増えてるヒトのが育てやすいって聞いたし、ついでにきちんと飼い方を聞いておこうと思ってる。絶滅したはずって何の情報だったんだろ。あー、増やしてるならそう言ってくれたら良いのに。
　じゃあ、行ってくるね。