ピエレット綺談

第十二夜『判断に困った時のおはなし』

　空中ブランコぶらりんこ、すってんこ、首が捻れてぶっちん、ぷっちん、ころころり。血の雨ざあざあ降ってきて、まるかいてちょんちょん、かっぱはいないよ、あひるです。しかくとさんかくこんばんは。愛してるよと囁く、嘯(うそぶ)く、涙出る。
　さぁてさてさて、今宵も元気に、こんばんは！　こんばんは！　こんばんは！　おっと声が小さいようですね？　ほら、もっと元気出していきましょう！　生きましょう！　逝きましょう！　こんばんは！　はい、良い返事でございますね！
　今宵も人生劇場第三回公演『ピエレット綺談』へようこそ！　うぇるかむ！　熱烈大歓迎！
　東西東西、本日も満員御礼。ぎっしりすし詰め、もっちりおはぎ。ぎゅうぎゅう詰まってモーモー鳴いちゃいますよ。立ち見の方は今一歩前へ。前へ詰めてくださいませ。
モッシュをするなら今がチャンス！　ハードでロックでデストロイなパンクでも流しましょうか？　あなたも蝋人形にしてやりましょうか！　あはあは、冗談でございますよ。そんな事はいたしません。
　申し遅れました！　私は心優しい夕焼けの精霊。名を、こやけと申します。
　当劇場へのご来場が初めての方もいらっしゃると思いますので、今一度アナウンスをいたしましょう。
　まずは温かいスープでもてなしましょうか？　それともパイにしましょうか？　どちらもあそこの売店で購入できるのです。小腹が空いたらどうぞです。私のオススメは、抹茶プリン！　いたいけにふるえるプリン。嗚呼、その肌はやわらかく、処女の生き血にもまさる美味しさでございます。まるで私がわるーい魔物のよう！　嗚呼！　抹茶プリン！　どうしてあんなに美味しいのでしょうか。じゅるじゅる！　ヨダレが垂れてしまいます。
　こほんっ、当劇場では、様々な人生の物語をお楽しみいただけます。本公演は演目が日替わりでございますので、昨日来た人も、明日来る人も、お楽しみいただけるのです。過去の演目を観たい場合は、時を駆けてくださいませ。あはあは。
　終わった人生の幕を再び開くも良し、白紙の人生に彩りを加えるも良し、新たな人生を上書きするも良し、色々な楽しみ方がございます。これも人生、あれも人生、人生色々、でございます。
　本日は初心者様向けのおはなしをいたしましょう。なぁに、常連様もお楽しみいただけるのですよ。ご新規のお客様を捕まえないと、こちらも商売あがったりでございます故。
　判断に困った時のおはなしをいたしましょう！
　クスッと笑えたら、あなたはなかなか……ウフフ。

　ぴかぴかの長い銃を持った猟師がおりました。しろくまのような大きな犬を連れ、今日も猟師は山へ入ります。犬は獲物を見つけると、うまい具合にぎゅるんぎゅるんと追い詰めるのです。そこで、猟師がバンッ……と撃つと、ドサッ、と獲物は倒れるのです。
　本日の猟も順調そのものでございました。撃ち取った獲物はその場で血抜きをして、解体して、血のにおいを辺りに漂わせながらクーラーボックスに詰めておりました。
　犬はまたもや獲物を見つけたようで、走っていくのです。がるるる、ばうっ！　と犬が噛みつけば、何かが、ざわざわ騒ぐのです。その影を猟師は仕留めるのです。よく狙ってバンッ……と撃つと、ドサッ、と獲物は倒れるのです。猟師は撃ち取った獲物を見に行きます。
　それはなんとまあ、人間の子どもでございました。赤い血がダラリダラリ、地面を濡らしております。ピクピク、痙攣しております。
　猟師は慌てた様子でスマートフォンを取り出し、レスキューに連絡をするのでした。
「もしもし、たいへんです！　人が死んでいるかもしれません！　わたしはどうしたら良いですか？」
「まずは落ち着いて！　本当に死んでいるか確認をしてください」
「わかりました」
　レスキューの指示で、猟師は子どもを見ます。
　バンッ……、銃声がひとつ。
「死んでいます。それで、どうしたら良いですか？」

　ウフフ、これでこの話は終わりでございます。
どうなったかですかって？　死んでいるかわからないから、確実に死んでいることにしたのですよ。あはあは。判断に困ったら、そうしたほうが早いのかもしれませんねェ。助かる道もあったかもしれませんけれど。
　ま、どっちみち、死んでたかもしれませんね。あはあは。
　これにて本日の演目は終了いたしました。またのご来場をお待ちしております。
　忘れ物とお足元にはお気をつけて。
　ここまでのお相手は、夕焼けの精霊のこやけでした。
　さようなら！