第十四夜『最近のおはなし』

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第十四夜『最近のおはなし』

 ぷっぷくー、ぷっぷくー、ぷあぷあー! ラッパがぱらっぱー、ぷあぷあー、ぷあぷあー!  白い鳩がばさばさ飛び去り、風がごおおおと吹いて、風車がぶわああと回る。まわるまわる、ぐるんぐるん、ぼとんっ、落ちる首。  サァサ、今宵も人生劇場第三回公演『ピエレット綺談』へようこそ! ようこそ! うぇるかーむ!  ここは天国、あの世の地獄、真っ逆さまに極楽浄土、浮かばら浮かべ、蜘蛛の糸、昇りし先は煉獄暗土(れんごくあんど)、天より高い海底は生温かく、海より低い空は寒かろう。あの子どこの子、河原の子。扱いは難しいけれど、切れ味抜群。保護したからには、余命は数百、何万歳。ちょいと待ちなよお代官、金色のお菓子が不味すぎる!  改めましてこんばんは! ご機嫌麗しゅう! 本日も満員御礼。まぁこぉとぉにぃ、ありがとうございます! 申し遅れました!  私、夕焼けの精霊のこやけと申します。初めましての方は初めまして。それ以外の方には、こんばんは! 私の大好きな食べ物は抹茶プリンです。生クリームの乗っている物は、苦くて甘くて、ぷるぷるしていて、とっても美味しいのです。ぷるぷるしていてぷるぷるしていてぷるぷるしていて、美味しいのです! とっても大事なことなので、四回ほど言いました。ウフフ。美味しいのです。そしてそして! 好きなものは、人間の命乞いでございます! あはあは、そう怯えないでくださいな。  私は人殺しが趣味ではございません。ただただ、反応が好きなのです。皆々様が笑ったり泣いたり、喜んだり怒ったり、そうした反応が大好きなのです。無反応や無関心な人間は嫌いなのです。美術品を見るかのように敬虔(けいけん)な態度でいるような人間は好きです。私を崇め奉る人間は大好きです。  さってさて、本日初めてご来場の皆々様の為にも、軽くご案内をば。  ここは『人生劇場』。様々な人生の物語をお楽しみいただけます。  私が語るのは、なにも終わった人生ばかりではありせん。既に亡くなった人の話ばかりではないのですよ。  今、この瞬間も、何処かで命の灯火を燃やし続けている――生きている人の話もあるのです。私共は、人生の一部分をご紹介しているだけでございます。ほんの少しの人生をご紹介しているのです。  故に、故に、当劇場は、皆々様の、人生の『時間』をお代として頂いております。あなたの時間も私のもの! 私の時間もあなたのもの! 共有しているのですよ! ですから、私とあなたは対等なのでございます。精霊と人間という種族の差はありますが、共有している時間は同じなのです。  というわけですから、私共に渡す時間の無い方は、疾くご退席を! どうか! 時間の有り余っている方は、そのまま観劇を! どうか!  大きな声では言えないけれど、小さな声では聞こえません! 私は人間が大好きでございます。醜くて、無様で、滑稽で、ずぅっと、見ていて飽きないのです。ウフフ。  そろそろ物語を物語りましょう。物が語るから、物語でございます。  閉じた幕を再び開け、世界を私共のものにするのです。この完璧な結界を壊すことは許されませんよ。ほら、壁に並ぶシルエットを数えてはなりません。彼方側に、連れ去られたいですか……? あはあは!  これはけっこう最近のおはなしでございます。あなたの身にも、起こるかもしれませんね。    公園で小さな女の子がひとりで遊んでおりますと、見知らぬ男が近寄ってきました。男は言います。 「おかあさんが呼んでいるから一緒に行こう」  女の子は男のことをちっとも知らないので無視するのです。知らない人にはついていってはいけないのです。女の子はとても賢いです。男はもう一度言います。 「ボクはおかあさんの友達だよ。おかあさんが呼んでいるから一緒に行こう」  ですが、女の子は動きません。何故なら、知らない人にはついていってはいけないのです。 おかあさんの教えを守る賢い子でございます。男は言います。 「おかあさんが呼んでいるよ。ボクはここにいるね」  それを聞いた女の子は動き始めるのです。さすがに何度も話しかけられて気持ち悪かったのでしょう。  お母さんに助けを求めるために、公園を出るまではゆっくり歩き、出てからは駆け出しました。男は女の子の後を追ってきていました。ですが、女の子には追いつきそうで追いつかないのです。  「まてまて」なんて嬉しそうな声をあげているので、通行人には親子にしか見えないのでございました。  そうして、女の子は家に辿り着いたのです。ドアを閉めようとしたその刹那! バンッ! と、ドアに何かが挟まりました。男が足でドアを止めたのです。そして男は言うのです。 「お家まで案内してくれてありがとう」    以上でございます。知らない人についていってはいけないのです。そして、知らない人がついてきている時は、自宅に帰ってはいけないのですよ。ここまでのお相手は、夕焼けの精霊のこやけでした!
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