第十五夜・苛烈キネマ『頭の良い子犬』

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第十五夜・苛烈キネマ『頭の良い子犬』

 三太郎は孤独でした。それはそれはもう、孤独でした。ひとりぼっちでいる時間の方が長いくらいには、孤独でございました。ある日、三太郎に友達ができました。真っ白い毛並みのかあいらしい子犬でした。かあいらしい子犬は、キャンキャン鳴くのでございました。三太郎はかあいらしい子犬に『コロ』と名前をつけました。  コロはとても頭の良い子犬でございました。頭が良くて、三太郎の言うことをしっかり聞いて応えるような子犬でございました。とても頭の良い子犬であったが故に、三太郎は不思議で仕方ないことがあったのです。  どうしてコロは捨てられていたのだろう?  ぽっと、頭にふってわいたような考えが、三太郎の脳内を支配していくのでございました。コロの他にも、子犬は捨てられているようでございました。河川敷には様々な物が捨てられています。一般的なゴミと呼ばれる物から、絶対に捨ててはいけない命まで。それはそれは、多くの物が捨てられているのでございます。三太郎は孤独であったが故に、河川敷にはよく足を運んでおりました。それは自分のように『孤独』な仲間を探すことでもあり、ただの時間潰しでもありました。三太郎は孤独であるので、孤独だからこそ、自由気ままに時間を消費していたのでございます。  であるからにして、三太郎にはコロが捨てられていたことが不思議で仕方なかったのです。この河川敷がゴミや命を捨てる場所であったとしても、頭の良い子犬が捨てられていることには、納得ができなかったのでございます。  ――こんなにも、頭が良いのに。  三太郎はコロを撫でながら思うのです。 こんなにも頭が良いのに、捨てられて可哀想だ。とは、思わなかったのでございます。逆に考え始めたのです。思案をし、脳髄の奥で考え、探求する。探し求めた答えは、そこにはあったのでございます。  やがて、コロはキャンキャン鳴かなくなりました。躾をした甲斐があったと三太郎は思うのでございます。躾をしたから、コロは鳴かなくなったのでございます。キャンキャンキャンキャンキャン鳴いていた頃が懐かしいとも思うようになるくらいには、しずかになったのでございました。  コロはとても頭の良い子犬でございましたから、エエ、とても、頭の良い子犬でございましたので、三太郎は満足でした。腹も膨れて、ちょうど良い眠気がやってきたのです。  三太郎は、孤独に戻りました。
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