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第一夜『人魚のおはなし』
あなたと私でパーリピーポー! へいへい、今宵はたのしいたのしいパーティーでございます!
さあ、あなたも! あなたも! あなたも! 二次元と三次元の間でランデブーいたしましょう!
本日は、人生劇場第三回公演『ピエレット綺談』へようこそ! こんな辺鄙で、怪しさしかないような劇場へご来場いただき、まぁこぉとぉにぃ、ありがとうございます!
戯けて魅せるが道化の生き様! まっくろくろすけをまっしろく塗ってやりましょう! ついでにススも、まっしろけに! あらあら大変、これだとただの綿ぼこりでございますねえ!
申し遅れました。私、皆々様の優秀な相棒、およびお目付役、ついでにボディガード、そんでもって、劇場案内員! 何を隠そう私が、私こそが、夕焼けの精霊。こやけと申します。以後お見知り置きを。
今こそ「こやけ様コール」をすべきタイミングでございます。さあ、張り切って、どうぞ! 大きな声で私を呼ぶのです! と言って……本当にやる人間はいないのでございます。私もそれは知っているのでございますよ。
さてさて、当劇場では、ありとあらゆる人生のおはなしを取り扱っております。常連の皆々様から、ご新規の皆々様まで。多くの方に楽しんで頂けるよう、本公演『ピエレット綺談』は、日替わり公演となっております。
本日の出し物も一度っきり。明日には別のおはなし演っております。毎日ご来場頂けたら、私も嬉しいですし、私の主人――劇場支配人も喜ぶことでしょう。それはそれは、髪の毛を掻きむしって喜ぶでしょう。ウフフ。
それでは早速ですが、始めていきましょう!
皆々様は人魚をご存知でしょうか?
上半身が人間、下半身が魚の種族です。あれって逆だと魚人になると聞いたのですが……魚人間とは言わないですよね? 間は何処に消えたのですか?
さて、人魚の伝説と言えば、『人魚の肉を食べると不老不死になる』というもの。
これは、そんな人魚のおはなしです。
ある漁村に、母と子がおりました。父は波に船を持って行かれ、帰らぬ人となりました。
母と子はそれなりに小さなしあわせを持って、良く暮らしていたのです。が、ある日のこと、子が病に罹ってしまいました。身体から脂汗がふきだすわりに皮膚はガサガサ、熱も下がらぬまま。どんなに良い薬を試しても、いっこうに治る気配がありません。
そこへ通りがかったのは、あやしげな商人でした。商人は言います。
「人魚の肉を食えば、不老不死になり、子は死なないぞ」と、「今なら譲ってやらんこともない」と。
そんなにうまい話がこの世にあるとは思えません。母は断ります。商人はさっさと去っていきました。とてもひきが早いのでした。詐欺師だったのかもしれません。
次の日。海岸が賑わっていました。なんと、人魚が打ち上げられていると言うではありませんか!
母は「これはしめた!」と思い、人魚の肉を持ち帰り、子に食べさせたのです。
子は肉を食べましたが、いっこうに病の治る気配がありません。数日経てば治るだろう。そう思っていても、治る気配が全くないのです。あまりにも苦しみ続けて、もがき、呻くので、母もだんだん心を病んできました。世話をするのも面倒になりました。このまま放っておけば静かになるかもしれない、とまで思うようになったのでございます。
母は泣き喚く子の口に手拭いを噛ませ、倉庫に閉じ込めたのでした。もう、完全に病んでいるのでございます。
数日して、静かになったかと思えば、子は変わらずに泣き喚いていたのでございます。
やがては、母が命を断とうと思い、鋭利な刺身包丁を子のやわらかな腹に突き立てたのでございました。
しかし、子は死にません。
何故なら、そう! 人魚の肉を食べているからでございます!
こうして何度も何度も何度も何度も何度も、滅多刺しにしていても、子は痛い痛いと泣くだけにございました。母はもう気が狂い、そのまま海に飛び込んで、帰らぬ人となりました。
さて、残された子はどうなったか? 人魚の肉は恐ろしい物でございました。不老不死であっても、傷を治す力も無ければ、病を治す力も無いのでございます。不老不死でも、痛覚はあるものでございます。傷が治るまで、ずっと痛み続けるのです。病が治るまで、ずっと苦しむのでございます。
全ては自己の回復力にかかっておりました。
これより先の子の話については、皆々様の時間が足りないようでございます。
この続きはまた別の機会におはなしいたしましょう。それがいつかは不明でございますが。
それでは、またのご来場をお待ちしております。ここまでのお相手は、夕焼けの精霊のこやけでございました。
さようなら。
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