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第三夜『お花の道路のおはなし』
真っ暗闇のそのまた深く、湿ったそのまた奥深く、潤ったそのまた奥深く、抉って、突いて、飛んで、跳ねて、びちゃらびちゃら溢れる水音、汚れたココロと穢れた処女。
サアサア、皆々様、ご機嫌麗しゅう! 初めましての方は初めまして。ご新規様大歓迎でございますよ。
一見様お断り! なぁんて、かたいことは言いませんとも! エエ! ここは天国、はたまた地獄、六道輪廻の先の先! 終ぞは煉獄、春また遠し。行くとし来る年、逆上がり!
本日も人生劇場第三回公演『ピエレット綺談』へようこそ! ようこそ! ようこそ!
申し遅れました。私は、偶像崇拝されるべき存在! 偶像そのもの! 夕焼けの精霊のこやけと申します。エエ、エエ、そうかしこまらずともよろしいのでございます。美術品を見るように敬虔な態度でいてくださると、私の好感度はうなぎのぼりです。右肩上がりにドーンです! ドーン! 突き破っていっちゃいますよ!
さて、当劇場では、様々な人生の物語をお楽しみいただけるのです。
お手軽にお楽しみいただける軽食から、何が出てくるかわからない日替わりランチ、最上のおもてなしを約束するコース料理、ナドナド、いろんなメニューがございます!
本日は初心者様向けのライトなメニューでご用意しております。しかし、常連のお客様の心もばっちりガシッと鷲掴みにできるようなものでございますよ。さっそく始めてまいりましょう!
どこにでも怪談というものは存在します。都市伝説とでも言うべきでございましょうか。廃墟には幽霊がいるとか、森には首吊り死体がいっぱいあるものだとか、池に逆さまに突き刺さってる人がいるだとか、井戸から女が這い出てくるとか、そういうものでございます。
これはどこにでもあるおはなし。そうですね、皆々様のような人も一度は目にしているやもしれません。
そんなおはなしでございます。
とある場所を仲の良い二人組が歩いておりました。その道路には、お花がたくさん飾られていたのです。
二人組は、ほぼ毎日その道路を歩いておりました。二人組は学生さんなので、毎日通るのです。
「今日も花が綺麗だなあ」
「そうだなあ」
「もっと増えたら良いよな」
「そうだなあ」
翌日、お花が増えていました。二人組は嬉しそうにしております。
「また花が増えたなあ」
「そうだなあ」
「俺たち以外にも花を見てもらいたいな」
「そうだなあ」
その翌日、二人組の隣に小さな女の子と女性がおりました。お花も増えていたのでございます。
「キレイなお花ね」
「ねー! まーちゃん、これすき!」
「花を見てくれる人が増えたなあ」
「そうだなあ」
「もっと増えたら良いよな」
「そうだなあ」
そのまた翌日、二人組の隣には小さな女の子と女性、よぼよぼの老夫婦がおりました。お花も増えていたのでございます。
「こりゃあきれいなはなだぁ」
「きれいな話だわねえ」
「キレイなお花ね」
「ねー! まーちゃん、これすき!」
「もっともっと増えたら良いよな」
「そうだなあ」
その日の夜。その道路に若い男女がやってきました。花を見に来た、とは様子が違うようでございました。
「なあなあ知ってる? このへんは、『お花の道路』って呼ばれてるんだってさ」
「確かにお花がいっぱいね! みんな飾りつけてるから?」
「ちがうちがう。交通事故が――」
と、男が言い切る前に、車がドーン!
若い男女にぶつかったのです。アスファルトに身体を強く打ちつけ、男は即死、女は軽傷でした。
退院してから、女は花束を持って道路にやってきます。そこには多くの人達がメッセージと共に花束を置いている姿がございました。
花束を側に置き、手を合わせる女。顔を上げると、二人組、小さな女の子と女性、よぼよぼの老夫婦、そして顔見知りの男がおりました。
「こりゃあきれいなはなだぁ」
「きれいな話だわねえ」
「キレイなお花ね」
「ねー! まーちゃん、これすき!」
「もっともっと増えたら良いよな」
「そうだなあ」
「はやく、逃げ――」
男が言い切る前に、女の身体は車にぶっ飛ばされておりました。
お花の道路を通る際には、くれぐれもご注意を。
そうでなくとも、危険はいっぱい、夢いっぱいでございます。うっかり彼方側に足を踏み入れたら、戻れなくなりますよ。ウフフ。
以上で本日の演目は終了でございます。
お足元とお忘れ物に気をつけてお帰りくださいませ。忘れ物をした場合は、私がきっちり回収して、しっかりと使ってあげるのですよ。あはあは。私への貢物でしたら、舞台まで来てくださいな。
それと、土に還りたい方も、舞台まで来てくださいまし。私が還して差し上げましょう! あはあは!
冗談でございますよ。あなたが生きてようが死んでようがどちらでも良いですが、お家に帰ってくださいませ。帰るまでが遠足! 還るまでが人生! 満腹になるまでが食事でございますよ!
それでは、ここまでのお相手は、ベリベリキュートな夕焼けの精霊、こやけでございました!
さようなら!
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