1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
度重なるアクシデント
風を全身に感じながら駆け下りていく。夕日が私を照らしてとにかく眩しかった。その景色も、私自身の気分も。車とほぼ同じ速度を自転車で出すという経験は中々無いものだろう。私はその経験を人生で何度も味わうことになる。
その日の夜には南下し静岡の海沿いまで到達した。そこから海沿いを西に進んでいくのだが、この日も徹夜で私は自転車を漕ぎ続けた。肉体的に精神的にも限界が来ていたのか私はそこである事故を起こしてしまう。
それは誰かに危害を加えるものではなかったのだが、旅は続行不可能も考えなくては行けない事態だった。
なにが起きたのかと言うと、昔の自転車だったためハンドルにはギアがついていなく、ランプも装備されていない自転車だった。市販のライトをハンドルの近くに設置していたのだが、その電池が切れ始め交換しようと横断歩道を渡ったら一旦自転車を止めようとした。
その瞬間、ガコンッと音とともに私の身体は宙に投げ出されていた。疑問符で私の意識は埋め尽くされ、顔面に衝撃が走る。そこに突っ込んだらしくチカチカする視界の中、見てみると車屋のショーウィンドウ。ガラス張りの所に突っ込んだらしく、私の身体の近くには周りに飾られている花壇がばら撒かれていた。
心配でガラスの方を見るがヒビもついてなく、安堵するが途端に目眩と吐き気が私を襲い、とても自転車を漕げる体調では無かった。
花壇をもとに戻して自転車を見てみると、どうやら私は縁石に引っかかって転んだということが判明した。自転車の前輪は衝撃でパンクしてしまい、一旦どこかのコンビニで時間を潰そうと考えた。
コンビニで店員さんにそのことを話し、私はトイレでその吐き気を抑えようと何度も履き続けてそのまま二時間ほど気を失っていた。
その店員さんに謝ると
「大丈夫大丈夫…それより大丈夫?鼻とか曲がってるけど…多分脳震盪だと思うけど病院行ったほうがいいよ?」
私はそんな優しい店員さんの忠告をちゃんと聞いた上で、大丈夫だと言うと自転車を押してまた進み続けた。
どうやら鼻も周辺が腫れているだけで、曲がってると勘違いさせてしまったらしかった。
近辺に自転車屋さんがあると調べたのでそこで開店するまで待つことにした。
1時間経つと日が出てきて、人もちらほらと出てくるようになった。人々が私に向ける視線は心配と不思議で満ちていて、路上で待つのが恥ずかしくなった時だった。
「どうしたんだい?」
私を見かねてか一人のお婆さんが声をかけてきた。その答えに素直に答えると頑張ってと言ってその場を離れてしまった。
そして更に二時間後
「あれ?多分まだ開ないよ」
先ほどのお婆さんが再び私の前に現れ声をかけてくれた。多分彼女はまだ居たのかという驚きがあっただろう。私はそれでも開店まで待ちますとのことを伝えてそれから3時間ほど待った。
「うちの人に今やってる自転車屋さんまで乗っけてもらうよう言ってみるから…待ってて!」
お婆さんはすごく優しい人で自転車を乗っけて、違う自転車屋さんまで乗せてって貰えるように旦那さんと交渉しにどこかへ行ってしまった。
私の心の中は申し訳ない気持ちと助かるという気持ちが半々に別れていた。その旦那さんの方も快くOKしてくれる優しい人で、その好意をありがたく受け取った。
「軽だけど大丈夫だ入るわ」
という謎の自信を見せるお爺さんは、自転車をトランクから少しはみ出しながらゆっくりと車を発進させた。
トランクがガン開きの状態で着いたのは大きなショッピングモールのような場所だった。意外と近くてトランクのことで警察にも引っかからずに無事到着した。
私はタクシー代としてお金を渡そうとしたが、お爺さんが私の話を親身になって聞いてくれ、逆にお金をやるとのことで私に薄い茶色の札を渡してくれた。当然受け取れないと何度も断ったが、お爺さんは頑固でそれを半ば押し付ける形で渡すので、では恩返しを今度させて欲しいと言って住所の書いた紙を頂いた。この時もお爺さんは頑固で
「要らん!それは持ってけ」
と何度も言ったが私は折れないで何度も頼み込んだ。
その住所の書いた紙を私はバッグにしまお、改めてお礼を言うと彼は嬉しそうに目を細めた。
どうやら前輪だけでは無く、後輪もパンクしてしまった私の自転車は両方のタイヤを交換することとなった。
恩と風を全面に受けて私はまた進み始めた。名古屋までは行けるだろうと自分の身体に鞭を打って必死に漕いでいた。名古屋まで行ったら、飯も一日おにぎり一個でなんとか帰れるだろうと。
現実はそこまで甘くなかった。やはり空腹というのは抑えられないもので、何度も何度も公園の水などで腹を膨らませ誤魔化すがそれも限界が来て、私は食べてしまった。ラーメンを…
自分の腹を殴りながら私は考えた。この調子だとお金が尽きてしまうぞ?と。
それからは何時間も自転車をがむしゃらに漕いだ。ここで更なるアクシデントが私を襲った。台風が近づいていて雨が酷かったのだ。雨具も準備していなかった私は当然ずぶ濡れになってしまう。
人も通らないような山道をただひたすら自転車を押しながらずぶ濡れになっていく。なんて体力の削がれる作業なのだと私は思った。
そしてまたアクシデントが発生し、遠回りするはめになる。
「そこの自転車〜この先トンネルは通行禁止〜」
どうやら私に向かって発しているその声は、今進もうとしていたトンネルから発せられているように聞こえた。
仕方なく私はUターンして近くのコンビニで道を聞くことにした。この時私の携帯は既に充電が切れていて使い物にならなかったのだ。
「それだったらこの先の山道を進んで回り道をすれば―」
という店員さんの言葉を信じて私は進んでいった。
その看板にはこう書かれてあった。
【土砂崩れにてこの先通行禁止】p
最初のコメントを投稿しよう!