18人が本棚に入れています
本棚に追加
Ⅲ 海神の巫女
「――もし? ……もし? 大丈夫ですか?」
「…………う、うぐ…」
あれからどれくらい時がたったのだろうか? ハーソンの耳に、そんな自分に呼びかける声が聞こえる。
「もし? このような所で寝ていては風邪をひきますよ? 生きているのならば起きてください」
なんとも耳障りのよい、清らかなな若い女性の声だ……なぜ、そのような声が聞こえるのだろう? ……ここは、どこだ? 自分は何をしていたのだったろうか……?
「……う……うん……あなた……は……?」
頭が朦朧として記憶が混濁する中、夢現の状態のままハーソンが薄っすら碧の眼を開けると、そこには寝転がった自分を覗き込む、一人の美しい乙女の姿があった。
雪のように白い肌に海のように深い蒼色の瞳、明るい金色の長く麗しい髪の上には、蔓を編んだ冠に野花を飾って載せている。
……女神か……あるいは天使だろうか? ここはもしや天国……いや、人間が追放されたという楽園だろうか?
吸い込まれそうな円らな瞳で、まじまじと自分を見つめる乙女の端麗な容姿に、ハーソンはぼんやりとそんな感想を抱いた。
……そういえば、古代異教の民の墳墓らしきものに登っていたのだったな……そうしたら、それが地震で崩れて……そこにできた穴に落ちて……では、ここは異教の黄泉の国か?
そして、その取り留めもない感想をきっかけとして、自分の身に起きたことをハーソンはだんだんに思い出してくる……。
……そうだ……俺はあの墳丘に空いた穴の中へ落ちたんだ……ということは、ここはあの墳丘の中……。
「……っ!? こ、ここは!? ……痛っ…!」
ようやくすべてを思い出したハーソンは、それとともにガバっと勢いよく上体を起こした。と同時に、全身のあちこちに打撲のような痛みが走り、思わず短い悲鳴をあげてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!