Ⅲ 海神の巫女

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Ⅲ 海神の巫女

「――もし? ……もし? 大丈夫ですか?」 「…………う、うぐ…」  あれからどれくらい時がたったのだろうか? ハーソンの耳に、そんな自分に呼びかける声が聞こえる。 「もし? このような所で寝ていては風邪をひきますよ? 生きているのならば起きてください」  なんとも耳障りのよい、清らかなな若い女性の声だ……なぜ、そのような声が聞こえるのだろう? ……ここは、どこだ? 自分は何をしていたのだったろうか……? 「……う……うん……あなた……は……?」  頭が朦朧として記憶が混濁する中、夢現(ゆめうつつ)の状態のままハーソンが薄っすら碧の眼を開けると、そこには寝転がった自分を覗き込む、一人の美しい乙女の姿があった。  雪のように白い肌に海のように深い蒼色の瞳、明るい金色の長く麗しい髪の上には、蔓を編んだ冠に野花を飾って載せている。  ……女神か……あるいは天使だろうか? ここはもしや天国……いや、人間が追放されたという楽園だろうか?  吸い込まれそうな(つぶ)らな瞳で、まじまじと自分を見つめる乙女の端麗な容姿に、ハーソンはぼんやりとそんな感想を抱いた。  ……そういえば、古代異教の民の墳墓らしきものに登っていたのだったな……そうしたら、それが地震で崩れて……そこにできた穴に落ちて……では、ここは異教の黄泉の国か?  そして、その取り留めもない感想をきっかけとして、自分の身に起きたことをハーソンはだんだんに思い出してくる……。  ……そうだ……俺はあの墳丘に空いた穴の中へ落ちたんだ……ということは、ここはあの墳丘の中……。 「……っ!? こ、ここは!? ……痛っ…!」  ようやくすべてを思い出したハーソンは、それとともにガバっと勢いよく上体を起こした。と同時に、全身のあちこちに打撲のような痛みが走り、思わず短い悲鳴をあげてしまう。
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