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「やはり、あそこから落ちて来られたのですね。強く体を打ちつけたようですが、大事はなさそうなので安心いたしました」
「落ちて来た……?」
乙女のその言葉に痛みを堪えながら上を見上げると、なんとも不思議なことにも青空の天頂部に亀裂が入り、ポカリと大きな穴が開いている。
「空が割れているだと!? なんなんだここは!? 俺は墳丘の中に落ちたはずだぞ? ……いや、ということは、ここはあの墳丘の中だというのか? し、しかし、石の塚の中に空があるというのは……」
だんだんと自分の身に起きたことを理解し始めるハーソンであるが、すると今度は今、目の前に広がっている光景とのギャップに頭が混乱してしまう。
不思議なのは頭上の青空ばかりではない……視線を周囲へ向けると、そこには草木が生い茂る青々とした大地が広がり、川が流れ、水車が回り、畑や果樹園もあるかと思えば、暗緑色の石のスレートを積んで造られた家々もあちらこちらに建ち並んでいる。
中でも特に目を惹いたのは、その大地の中央――ハーソンの目の前にそびえ立つ、異教のものと思われる古代風の大神殿だった。
巨大な石の列柱が並ぶドーム状の屋根の建造物であるが、全体にあの石碑の如く渦巻き模様が施され、古代イスカンドリア帝国のものともまた違う、見たこともない変わった様式だ。
「ここは〝マグ・メル〟――わたくし達ダナーンの言葉で〝喜びの島〟という意味です」
ゆっくりと立ち上がり、唖然と周囲の景色を見回すハーソンに、対する乙女は落ち着き払った声でそう答える。
「ダナーン? 確かにマグ・メルといえば、聖ブレンディンが辿り着いたというダナーン人の楽園の島……そ、それじゃ、君はダナーン人だというのか? い、いやでも、ダナーン人は遥か昔にミレトス人に滅ぼされ、黄泉の世界へ追いやられたはず……ま、まさか! 地下世界へ逃れたというのは本当に……」
「ダナーンは滅んではおりません。確かにミレトスとの戦に敗れ、地上を追われましたが、こうして地下の世界で生き続けているのです。かく言うわたくしもダナーンの民の末裔、かつてこの島の王だった海の神〝マナナーン・マク・リール〟に仕える巫女のウオフェと申します」
乙女の言葉にますます混乱を極めるハーソンであるが、彼女はハーソンがまさかと思ったその予想通りに、自身がダナーン人であることをさらっと肯定してみせる。
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