Ⅲ 海神の巫女

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「そ、それじゃ、大昔から君達はこの塚の中で暮らしてきたというのか!? 〝地下世界に逃れた〟というのが、まさかその字義通りのことだったとは……い、いや、でも、現実にそのようなことが……それに、地下だというのになぜここには空がある!? なぜ、太陽もないのに明るい!?」  乙女――ウオフェと名乗る美女の言うことをなんとか頭では理解するも、やはりその現実離れした話は俄かに信じられず、頭上に広がる穴の開いた青空を震える瞳でハーソンは再び見上げる。 「空があるのは、石の天井にダナーンの魔術で映し出しているからです。同じく明るいのも光の神〝ルー〟の力を用いる魔術ですね。それと、我々が逃れたのはこの〝マグ・メル〟だけではありませんよ? 常若(とこわか)の国〝ティル・ナ・ノーグ〟や影の国〝ダン・スカー〟など、ダナーンの民が住む地下の世界は他にも幾つかございます」  そんなハーソンに、やはり彼女は平然とした顔で、何の不思議もないとでもいうようにそう説明した。 「とても信じられんが……今、見ているのが現実であるならば、それも本当にそうなのだろうな……確かに、ダナーン人は魔術に優れていたと云う……ならば、このありえない景色もありえるということか……」  やはりまだ半信半疑ではあるものの、ダナーン人にまつわる魔術の伝説を思い出すと、ハーソンはようやくに一応の納得を見せる。 「……そういえ、今、君は〝巫女〟だと言っていたな? ならば、ダナーン人の魔術にも詳しいのか?」  そして、何度見ても石塚の内部とは思えない、ここが地上と見紛うばかりの美しい景色を見渡しながら、ハーソンは再びウオフェに質問をぶつけた。  よく見れば、彼女は純白のチュニックのようなゆったりとした衣を纏い、首には魚の装飾が付いた金のトルク、右手にはイチイの木の長い杖を携えている。 「まあ、それなりには……といっても、マナナーンやルーのような古の神々とは違い、わたくし如きではたいしたことはできませんけどね」  その問いに、細く綺麗な金色の眉を「ハ」の字にして、かわいらしい苦笑いを浮かべながらウオフェは答える。 「ならば訊きたい。ダナーン人は魔法剣を代表とする優れた魔法の武器を造ることができたと聞く。それは真の話か?」 「……え? ええ。その製造法は秘伝ですので、誰しもができるというわけではありませんが、魔法の道具を作り出すのもダナーンの魔術が得意とするところです。魔法剣なら一本この島にもありますよ。ご覧になられますか?」  俄然、興味を抱き、彼女の方を振り返るとさらに重ねて問うハーソンであるが、するとウオフェはまたさらっと驚くべきことを口にしてくれる。
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