Ⅲ 海神の巫女

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「なっ…!? こ、ここに魔法剣があるというのか!? ぜ、ぜひにも見せてくれ!」  意外なほどにあっさりと見つかってしまったお目当ての一つである魔法剣に、当然、ハーソンはすぐさま飛びつくと、彼女の申し出に興奮した様子で詰め寄った。 「わ、わかりました。では、どうぞ、神殿内へ。でも、まずはあなたの怪我の手当てからいたしましょう。大事はないと言っても、あの高さから落ちたとあれば、ひどい打ち身ではあるでしょうからね」  彼の食いつきぶりに少々引きながらも、そう言って天を指さすウオフェの言葉に、全身を走る鈍痛のことをハーソンは思い出した。 「痛っっ……確かに。その必要がありそうだ……ん? そういえば、何か大事なことを忘れているような……あっ! ティヴィアスは!? あいつはどうしたんだ!?」  思い出すと、忘れていたその痛みを強く意識するようになるハーソンであるが、もう一つ、すっかり忘却の彼方に追いやっていた相棒のことも今さらながらに思い出す。 「ティヴィアスを……図体のデカい男も見かけなかったか!? そいつも一緒に落ちてきたと思うんだが……」 「さあ、見かけたのはあなただけでしたけれど……お友達ですか?」  慌てて問い質すハーソンに、ウオフェはまったく心当たりのない様子で首を横に振る。 「そうか……そんなに遠くへ落ちたとも考えられんし、やつは落ちずに助かったか……今頃、別の入り口を探しているのかもしれないな。じゃあ、その間に悪いが先に手当てをしてもらいがてら、魔法剣を拝ませていただくとするか」 「はい。それでは参りましょう。どうぞ、わたくしの肩に腕を。魔法剣〝フラガラッハ〟はマナナーン・マク・リールを祀る祭壇にあります」  改めて頭上の穴と周囲の景色を見比べ、姿の見えぬティヴイアスにそんな解釈を下すハーソンに、ウオフェは肩を貸しながら彼を神殿へと誘う。 「そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたね」 「ああ、これは失礼した…痛つっ……俺はハーソン、ずっと南の方にあるエルドラニアという国から来たハーソン・デ・テッサリオだ」  そして、今さらながらにも名前を尋ねてくるウオフェに、気づけばすぐ近くにある彼女の美しい顔に思わず体を仰け反らせると、再び全身に走る痛みを堪えつつ、ハーソンはそう簡単な自己紹介をして彼女とともに歩き出した――。
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